34話
「で、市村さん。雄太の足は どう? 行けそうぉ〜?」
梅野は靴を脱いで施術用ベッドに上り胡座をかく。
(梅野さんと言い、鈴掛さんと言い……。その施術用のベッドをソファー代わりに使ってるけど、大丈夫なのか……?)
昨夜、鈴掛は当たり前のように 施術用ベッドに座った後、爆睡していた。
雄太は少し心配になり、チラリと春香を見るが、全く気にしている様子もなく
「はい。私、やる時はやりますから」
とマッサージをしている手を止めて右腕を上げ、力こぶを作るポーズをとっている。
それを見て
(梅野さん達は、これが通常なんだな……)
と雄太は少し呆れながら思った。
「だよなぁ~。雄太が足を捻ったって聞いた時は焦ったけど、東雲に行ったって鈴掛さんから聞いて安心したんだよねぇ~。市村さんなら、絶対大丈夫ってさぁ~」
早朝、鈴掛と梅野が調教終わりに話をしていたと、純也が言っていた。
『話してる内容は聞こえなかったけど、梅野さんスゲェー心配そうな顔してた』
恐らく純也が見たのが、梅野の言っている話だったのだろう。
普段、雄太をからかう事が多い梅野だが、心配してくれる優しさのある良い兄貴分だ。
(俺も梅野さんみたいになれるかな……? 見た目は無理なのは分かってるけど、梅野さんみたいな器の大きな男になりたいな……)
雄太は、歳が近いからこそ梅野に憧れる部分が大きい。
「『絶対』って言ってもらえるのは嬉しいですけど、怪我はしない方が良いですよ?」
春香はマッサージを再開しながら言う。
「梅野さんも市村さんの常連なんですか?」
店を訪れた時の様子や話している感じが親しげで、鈴掛だけでなく梅野も春香の常連なのかと雄太は気になった。
梅野はヒラヒラと右手を振る。
「来た時にも言ったろぉ~? 俺じゃ、毎回市村さん指名は無理だってぇ~。マジでヤバい時だけ助けてもらってる。まぁ常連っちゃ常連だけどなぁ~。雄太もさ、市村さん指名じゃなくても良いから、筋肉のメンテはちゃんとしといた方が良いぞぉ~?」
「筋肉の……メンテ……ですか?」
梅野の言われて、雄太は春香を見る。
「疲労を蓄積させちゃう前に、しっかりマッサージを受けた方が良いですよって事です。いくら体の柔らかい騎手の方でも、自分で出来る範囲って限られてますから」
(成る程。確かにな。筋肉のメンテ ちゃんと考えてみよう……)




