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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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335話


「春香ちゃん、お疲れ」

「鈴掛さん、お疲れ様です」


 春香が会場の端で飲み物を飲んでいると、それに気付いた鈴掛が歩み寄り話しかけてきた。


「春香ちゃん、疲れてないか? ずっと立ちっぱなしだろ?」

「大丈夫ですよ」

「そうか? 何か騎手の妻の顔が板に付いてきたって感じだな」

「そうですか? まだ慣れない事や覚えないといけない事が多くて、もっと頑張らなきゃって思ってます」


 春香自身は『まだ』とは言っているが、全く競馬と関係のない世界で生きてきたとは思えないぐらい、しっかりと騎手の妻をやっていると思える。


(褒められ慣れてないんだろうな。最初は、自己肯定感が低いだけなのかと思ってたが……。まぁ、頑張らなくても良い……とは言えないんだよな……。雄太、G1騎手になっちまってんだしな)


 鈴掛はチラリと春香を見ると、会場の隅にいながらも、しっかり雄太を目で追いかけている。


「それにしても雄太の奴、本当に凄くなったな」

「はい。嬉しいです」

「何度も何度も惚れ直してるだろ?」

「えへへ」


 G1騎手の妻の顔から一転、年相応の女の子らしい照れ笑いを浮かべる。


「俺もさ、雄太が成長してるのは嬉しいんだ。何度も背中を見せられるようになったけど、次は勝ってやるぞって気持ちも湧いてるんだ。まだ、負けてたまるかってさ」

「そう言う鈴掛さん、格好良いですよ」

「お? そうか?」

「はい」


 先輩騎手として後輩に負けた悔しさはあるだろう。それでも、後輩である雄太の勝利を喜べるのは鈴掛の人柄であるだろう。鈴掛だけでなく、梅野や純也もだ。


 雄太の勝ちを妬む人を見てきた春香は、鈴掛達を尊敬している。


(雄太くんは才能に恵まれた上に努力も重ねてきた……。誰にでも優しくて、でも自分には厳しくて、競馬には真摯に向き合っているんだもん……。格好良いなんて言葉で表現出来ないくらい格好良い……)


 たくさんの年長者に囲まれ、挨拶を交わし、写真に納まり、称賛を浴びる。


 大人びた顔をする時の雄太も好きだけれど、やはり家でくつろいでいる時や屈託のない笑顔の雄太が好きだと改めて思った。




 成人の祝いと祝勝会を兼ねた会は、なごやかにお開きとなった。


 自宅に戻った雄太と春香は一緒に風呂に入り、のんびりとした時間を過ごしていた。


「春香、疲れた?」

「ん? 大丈夫だよ。雄太くんこそ疲れたでしょ?」

「まぁな」


 春香は雄太の背中を洗い終わると肩に手を乗せた。


「少しこってるね」

「ははは。ずっとスーツ着てるとな」


 春香はそのまま肩をもみ始めた。


「あ〜、そこ。はぁ〜」

「気持ち良い?」

「ああ。やっぱり春香の手は最高だな」

「うん」


 しっかりと揉みほぐしてもらいながら、雄太は今日一日を思い出していた。


 もう何度も祝勝会をしていたのに、今日はやはり違っていたと思った。


「俺さ……」

「ん? なぁに?」

「春香と結婚して成績が落ちたって言われたくなくて、絶対一着獲るんだって思ってたんだよ」

「ありがとう。嬉しいな」


 雄太の言葉に、春香は涙ぐみそうになる。


 いつも、春香の事を考えてくれていると言う幸せが胸いっぱいに広がる。


「で、さ。ずっと訊きたかった事があるんだけど……。観客席でリボン振ってた?」

「え?」

「ウイニングランでスタンド前に戻ってる時に青いリボンが見えたんだよな」

「あんなにたくさん人が居たのに見えてたの……?」


 驚いて春香の手が止まる。見えるはずがないと思っていたのだ。


「ちゃんと見えてたぞ? 青いリボンがヒラヒラって。あそこに春香がいるんだぁ〜って思った」

「おめでとう〜って気持ちをどうやったら表現出来るかなって思って」


 雄太が肩の上に乗っている春香の手に自分の手を添えた。


「ちゃんと春香の気持ち伝わったよ。俺、嬉しかった。勝てて良かったって、本当に思った」

「うん。これからも一生懸命応援するから」

「ああ」


 春香の癒しに、明日からも頑張れる気がした雄太だった。





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― 新着の感想 ―
祝勝会時の2人。 雄太君も様々な人と挨拶を交わしながら、そして春香ちゃんもまた。 気づいたように春香ちゃんに声をかける鈴掛さん。 鈴掛さんも、梅野さんもそして純也くんもまた雄太君のいい友人いいライバル…
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