323話
「女性ファンかぁ……。雄太くんの格好良さをたくさんの人が分かってくれて、凄く嬉しいんだけどぉ……」
「うん? どうした?」
二人で鮎川の番組の録画を見終わった後、ソファーで膝を抱えて座っている春香が呟く。
「やっぱり、複雑ぅ……」
「え? もしかして……妬いてる?」
「妬くもん」
プイッと横を向いて頬を膨らませた春香は、いつもにも増して幼く見える。
雄太は吹き出しそうになりながら、春香の頭を撫でる。
「俺は、浮気なんてしないぞ? 春香だけしか見てないし、世界で一番だって思ってんだからな?」
「こんなにヤキモチ妬きでも?」
「俺も妬くって言ったろ?」
拗ねて上目使いで自分を見ている春香を抱き締める。
(春香は、俺がどれだけ妬いてるか分かってないもんなぁ〜。健人にですら妬いたのに……。もしかして、アレはネタだって思ってたりしてたりするのか……?)
「ん〜。私に足りない物……」
「へ?」
「世の中の女の子にあって、私に足りなくて、必要な物って何?」
驚いた雄太が、腕を緩めて春香の顔をジッと見詰める。
冗談かと思いきや、春香の目は真剣だった。
「必要な物……なぁ……。笑顔が可愛くて……料理もマッサージも上手い……。芯がしっかりしてて……優しい……。これだけあれば充分じゃないのか?」
「う〜ん」
納得が出来ていないのか、春香は眉間に皺を寄せて悩みだした。
(金銭感覚はたまにブッ飛ぶけど、それって俺にってのが大半だしなぁ……。嫌な事は嫌って、はっきりと言えるようになったし……。父さんや母さんとも上手くやってくれてるよな。妻にとしても充分だろうと思うんだけど……)
「分かったっ‼」
「え? あ……何が足りないのか分かったんだな?」
春香は大きく頷いた。たが、雄太にはさっぱり分からない。
「色気だよ」
「は?」
「女の色気が足りないと思うの」
「えっと……マジで言ってる……?」
コクコクと何度も頷いた春香は、雄太に顔をグイッと近付けた。
それと同時に体が近付く。雄太の胸の少し下辺りに春香の豊かな胸が押し付けられる。
(その魅惑のメロンが女の色気じゃないとでもっ⁉ てか、前にも色気が欲しいとか言ってたよな……? そんなに欲しい物なのか……?)
春香がないと言っている色気に惑わされている時がある雄太には、何と言って良いものかと悩む処である。
「ねぇ。どうしたら色っぽくなれる?」
「そ……そ……それを俺に訊く⁉」
「だって、雄太くんから見て魅力的とか色っぽくならないと」
「俺にとって、春香は充分色っぽいんたけど?」
雄太はツンツンと春香の胸をつついた。
プニプニと柔らかな感触が雄太の指を魅了する。
「雄太くんのエッチぃ〜」
「春香にだけエッチになるんだって。色っぽい時だってあるんだし、日常的に色気を振り撒くのは良くないぞ?」
「色っぽい時あった?」
ペタンとソファーに座り直した春香が訊ねる。
「ネグリジェ姿とか、正月の長襦袢姿もメチャ色っぽかったぞ?」
「ん〜。普段色っぽくなくても良いの?」
「良いって。俺にだけ色っぽい姿を見せてくれたら」
既に臨戦体制に入っていた雄太は、そのままソファーに押し倒そうとする。
うなじにキスをしようとした瞬間、春香がふと顔を上げる。危うく顔面に頭突きを喰らうのを素晴らしい反射神経を発揮し避けた。
(ふぉっ⁉ あ……危なかった……)
「ミニスカート履いてみようかな?」
「だっ‼ 駄目っ‼」
直樹と同じようにミニスカートに反対をする雄太に、春香はまたグイッと体を近付けながら訊ねた。
「何で?」
「春香の足は、他の野郎に見せたくないっ‼」
「家の中だよ?」
「宅配の人とか郵便屋さんとか来る時あるだろ?」
「それもそっかぁ……」
そもそも女の子っぽい服装が苦手と言うのに、なぜミニスカートを履こうとするのか。
「俺には今のままで十分色っぽく見えるから」
「そう?」
「うん」
振り回されながらも、たっぷりと春香を堪能した月曜日の雄太だった。




