313話
1月30日(月曜日)
二人はオーダーしていた結婚指輪の受け取りに、ジュエリーショップを訪れていた。
「こちらが御注文の御品になります」
差し出された指輪を見て春香はパァーッと顔を輝かせた。
「うわぁ……。綺麗……」
「デザイナーさんが言ってたけど、ピンクゴールドが良いアクセントになってるな」
「うん」
雄太のはシンプルな飾りのないデザイン。春香のには小さなダイヤモンドが埋め込んである。
「よろしいですか? では、裏側の文字のご確認お願いします」
店員に促されビロード張りのボードから指輪を手に取り、雄太は裏側を確認をする。
「はい。間違いありません」
「では、実際にはめていただいてサイズの確認をお願いいたします」
店員の言葉に春香は雄太の方を見た。その視線に気付いた雄太は何かあるのかと気になった。
「どうかしたのか?」
「これ結婚式まで着けないって決めたじゃない? でもね、試着なんだけど、雄太くんに……ね。その……」
「へ? ああ、そう言う事か」
「えへへ」
春香が左手を差し出すと雄太はスッとボードから指輪を取り、春香の左手薬指にはめた。
「ん〜。嬉しい〜。じゃあ、私も」
「え? あ、うん」
次は春香が、雄太の指に指輪をはめた。
幸せそうなカップルをたくさん見て来たはずの店員ですら、微笑ましく思える様子だった。
「サイズもよろしいようですね。前回は御結婚式は、まだと伺いましたが」
「ええ。10月に決まりました」
「そうですか。おめでとうございます」
店員と雄太の会話を春香は指輪を眺めながら聞いていた。結婚式ではないが、雄太に指輪をはめてもらうのは二回目。
その嬉しさからつい忘れそうになっていたが、訊ねておかなければならない事を思い出した。
「あの……結婚式まで着けないって決めたんですけど、そう言うのっておかしいですか?」
「いえ。そんな事はございません。結婚指輪を着けない方々も、奥様だけ着けると言う方もいらっしゃいます。ご夫婦でいつと言うのを決められても良いかと思いますよ」
「ありがとうございます。じゃあ、結婚式までしまっておこうね」
「ああ」
雄太の方を見て春香は安心したように微笑んだ。
「では、ケースの方にしまわせていただきます」
「あ、はい」
春香は名残惜しそうに指輪をはずし、ボードの上に置いた。雄太がその横に置くと、店員は手袋をはめ、指輪を磨いてケースに入れた。
その後、綺麗にラッピングし洒落た紙袋に入れられた。
✤✤✤
「これ、美味いな」
「うん。初めて食べたけど美味しいね」
昼食にイタリアンレストランに向かった。
落ち着いた内装で雰囲気のある店内でゆっくり食事をしながら、結婚式の話をする。
「ショップの人が言ってたリングピローって何の事か春香は分かったのか?」
「うん。えっとね、結婚式の時に指輪の乗せる物だよ。布製のクッションみたいなのが一般的かな。指輪のケースみたいにはさんだり、リボンで結んだりするんだよ」
雄太はドラマか何かで見た事があったが、名前が分かっていなかった。
「あ〜、成る程な。あれってどんなのでも良いのかな?」
「雄太くん何か拘りがあるの?」
「拘りって言うか革にしたいと思ったんだよ」
「革?」
「そう。俺がレースで使ってる鞍あるだろ? あれを作ってる所に余りの革で作れないか訊いてみようかと思ったんだ」
「それ良いね。わぁ〜。作ってもらえたら嬉しいなぁ〜」
鞍の形にカットした物の余りがどれだけの大きさになるのか、まだはっきりと分かってはいない。作ってもらえるかも分からない。
それでもお仕着せの結婚式ではなく、自分達のアイデアを取り入れた個性的な結婚式がしたいと雄太も春香も思っていた。
「もし駄目だったら……」
「私が作るよ」
「え?」
「レースとか買って来て頑張る」
「よし。無理って言われたら春香の手作りにしよう」
「うん」
10月の結婚式に向けて、色々とアイデアを話し合う事が楽しくて仕方なかった。




