303話
12月16日(金曜日)
阪神競馬場の調整ルーム。久し振りに四人が同じ競馬場でのレースに出る事になった。雄太と梅野は日曜日は中京競馬場で出走だが。
「何か久し振り感が凄いなぁ〜」
「そうっすね」
「俺、あちこち走りに行ってたからな」
相変わらず雄太の部屋でゴロゴロウダウダと駄弁っている。
(だぁ〜かぁ〜らぁ〜。何でいつも俺の部屋なんだよぉ〜)
もう諦めてはいるが、調整ルームの部屋はさして広くはないのに、細身ではあるが男が四人も居れば狭いと言う感は否めない。
「てかさ、このまま行けば、リーディング一位は雄太だよな」
鈴掛は缶コーヒーをチビチビ飲みながら雄太の方を見た。
「まぁ、そうでしょうねぇ〜。気が付いたら抜かされてたしぃ〜」
梅野はなぜだか純也をバックハグしながら話している。最初、抵抗していた純也も諦めて梅野を背後に背負った状態であぐらをかいて座っている。
「俺、全然雄太に追い付けなかったなぁ……」
「純也は追い付けなかった悔しさがあるだろうが、途中で抜かされた俺はもっと悔しいんだぞ? いつの間にか抜かされて、抜き返してやろうと思っても追い付けないんだからな?」
「あぁ〜。それはそうっすね」
追い抜かされた悔しさと追い付けない悔しさの二つ合わさった方が悔しさは倍増で済まないと鈴掛はしみじみと言う。
「春香と早く結婚したいなら勝つしかないって思ってたし、結婚したなら悪評立たせないようにしないとって思うから、成績落とすとか出来ないんで」
雄太はニッと笑って話す。雄太も春香の為に頑張れるし、春香も雄太の為に頑張る。やはり似た者同士の二人だ。
「春香ちゃんのサポート付きだもんな」
「はい。やっぱりしっかりマッサージしてもらうと体が楽ですね。関節の動きも滑らかだし」
「てか、純也ぁ〜。お前、俺を抜かしたの忘れてんのかぁ〜?」
「忘れてないっすよ? しっかり覚えてるっす」
「な・ま・い・きぃ〜」
ニヤリと笑う純也の首筋に梅野はフゥ~っと息を吹きかける。
「うおぉ〜っ‼ やめてくださいっすぅ〜。ゾワゾワするっすっ‼」
「純也はこの辺が感じるんだなぁ〜?」
「ウハハハハっ‼」
雄太はじゃれ合う梅野と純也を見ながらゲラゲラと笑っている。
レース結果だけてなく、リーディングの順位を抜かされても妬み僻みで足を引っ張り合わない四人。だからといって馴れ合っている訳でもない。ライバル意識があり切磋琢磨する良き仲間であるのは間違いない。
「毎年は無理かも知れないですけど、出来れば獲りたいなって。もちろん全国リーディングも狙っていきますから」
雄太はニヤリと笑いながら宣言した。
「俺もリーディング獲りたいっ‼」
「ソル。俺は譲らないからな?」
「一回ぐらい譲るとかない?」
「嫌だね〜」
同期でライバル。しかも、上位となると数は限られる。
(全く……。こいつら、優秀過ぎんだろ。二人揃ってリーディング上位とか有り得んぞ?)
鈴掛は雄太と純也のどちらかが年代が違ったらどうだろうかと思った。
(否。どっちかが違っててもライバルには違わないだろうな。新人賞以外影響出ないだろうし)
いつもはくすぐられたりしている雄太が梅野にバックハグされて動けない純也の脇腹をつついて遊んでいる。
梅野もこれは面白いと思ったのか純也の腕を抱え、後ろから足を前に出して純也内腿に絡め足を動かないようにしている。
「ばっ‼ 雄太っ‼ やめっ‼ ギャハハハっ‼」
「うりゃ。ふふ〜ん」
雄太の楽しそうな姿を鈴掛はニヤニヤと眺めている。
(どう見てもただのガキなんだよな、二人共。てか、梅野の体が柔らかいのは知ってるが、よくあの体勢出来るよな)
三人のじゃれ合いは本当の兄弟のようで微笑ましい。ただ、純也は息も絶え絶えと言った状態であった。
「す……鈴掛さぁ〜んっ‼ 助けてくださいっすぅ〜っ‼ ゆ……雄太っ‼ やめっ‼ 梅野さんっ‼ 離してくださいっすぅ〜っ‼ ギャハハハっ‼」
純也が助けを求めるが、たまには良いかと放置した鈴掛だった。




