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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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300話


 阪神競馬場の調整ルームで雄太は大きな溜め息を吐いていた。


 今日明日は鈴掛達は阪神には来ない。珍しく純也と二人だった。


(春香、もう東雲に行ったかな? 淋しいとか思ってるのは俺だけだったりしないよな? 春香ぁ……)


 運転をしている時は気にならなかったが、調整ルームに入るとやはり春香の事が気になった。


「何だよ、雄太。もう春さんシックか?」

「うぅ……」

「雄太が春さんに惚れまくってるのは知ってるけど、まだ数時間しか経ってないんだぞ? どんだけ惚れてんだよ」


 純也に言われて顔が赤くなるのを感じた雄太はそっぽを向いた。


 付き合う前から、春香を想ってはボゥーとしていたのを見慣れている純也でさえ呆れるぐらいに春香の事を想って心ここにあらずと言った感じになっていた。


「会いたいってのもあるけど、春香はマンション暮らしで防犯対策バッチリだったろ? 戸建てだと心配な面もあるんだよ」

「あ〜。それもそうか。春さん家、ガッツリ防犯対策してたもんな」

「ああ」


 実親に対する言う意味ではあったがガッツリ防犯対策が施されていた。空き巣や強盗等の対策も兼ねていると安心していたが、雄太との家は戸建てでありやはり心配な面があった。


「まぁ、会いたいのは分かるけどさ。ミニアルバム持って来てんだろ? それでも見とけ。日曜日まで我慢するしかないんだからさ」

「そう……だな」


 純也に言われ雄太はバッグからミニアルバムを取り出した。そして、表紙を開くとヒラリと淡いピンクの紙が落ちた。


(ん? 俺、こんなの入れ……え?)


 落ちた紙は桜色と言う感じの色合いのカード。隅には四葉のクローバーがプリントしてあった。


 『大好きな雄太くんへ』


(春香……)


 『怪我に気を付けて頑張ってね。大好きだよ。春香』


 たったそれだけの文章なのに、胸に広がる安心感。愛おしさ。


「おうおう。新妻からのラブレターとはねぇ〜。この幸せ者ぉ〜」


 覗き込んだ純也が雄太の脇腹をつつく。


「ブハッ‼ 脇腹はやめろっての」


 調整ルームに持って行く荷物はもちろん自分で詰めた。結婚したんだからもう持って行かなくても良いかと思ったが、ついミニアルバムの写真を入れ替えて鞄に入れた。


 知られたら恥ずかしいと言う事もあって、ミニアルバムの話は春香にはしてなかった。だから、これは鞄に忍ばせておこうと思った春香がミニアルバムを見付けてはさんだものと分かった。


(春香の写真を調整ルームに持ち込んでるとかバレるなんて恥ずかし過ぎだ……。けど、春香は何も言わないでこれ入れてくれたんだな。ありがとう、春香)




 数時間前、春香は雄太が調整ルームに入る準備をした後、純也から電話があり話に集中してる隙にそっと鞄を開けると、一番上に置いてあるミニアルバムを見付けた。


(これって……)


 表紙を開くと梅野に撮ってもらった写真があった。次のページも次のページも雄太と二人の写真や春香の写真があった。


(雄太くん……。これ調整ルームに持って行ってるんだ……。嬉しいな)


 恥ずかしい気持ちと嬉しい気持ちで顔が緩む。だが、自分がメッセージカードを入れようとしてるのも少し恥ずかしいかもと思いながら、ミニアルバムにメッセージカードをはさみ込んだのだ。



「家を出て数時間で春さんシックになるって事は、昨日の夜はシなかったのか?」

「へ? 昨夜もシたし、今朝もシた……あ」


 つい口が滑ってしまい、しまったと思ったが既に遅かった。


「ほぉ〜。朝っぱらからサカっておいて淋しいとか言うんだ?」

「し……仕方ないだろっ⁉ 毎日一緒に寝てて、二日間も一緒に寝られないんだからっ‼」

「朝、何回シて来たんだよ?」

「言わないっ‼」


 純也は雄太の脇腹を盛大にくすぐった。


「や……やめ……。ブハッ‼」

「何回シたんだよぉ〜。言えぇ〜」

「脇腹は……ブハハッ‼ 駄目だっ……て言って……ギャハハハ」


 思いっきり脇腹をくすぐられて言える訳もなく、息も絶え絶えになりながら雄太は純也のおもちゃになっていた。





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― 新着の感想 ―
調整ルームに純也君と二人の雄太君。 そして彼はなんと春香ちゃんシックになっていた。w まあ新婚だし分かりますけどねw そんな雄太君は何気に持ち歩いているミニアルバムを見ると中には春香ちゃんからのメモ書…
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