2話
雄太に言われるたび
「陸上で食って行くのは大変だからな」
と純也は答えた。
「騎手だって食って行くのは大変なんだからな?」
と雄太は言って来た。
(ソルん家の親父さん、体壊してまだ本調子じゃないんだっけ……。だからって騎手になろうとか無茶苦茶なんだよな……)
雄太はぼんやりと考えながら歩いていた。
子供の頃から目を瞑っても歩けるくらいに慣れ親しんだ道だったのたが、雪が積もって来ていたからか歩道のほんの数センチの段差に足をとられた。
(え? あっ‼)
左足首がグニャリと外側に曲がる。
「つっ‼」
小さな叫びをあげ雄太は 歩道に倒れ込んだ。
「雄太っ⁉」
純也は雄太の傍に膝を着いた。
「どうした?」
雄太はゆっくりと左足を伸ばした。
「痛ぇ……。足捻った……」
純也はそっと雄太の靴を脱がせる。
(ヤベェ……。もう腫れて来てやがる……)
純也はゆっくりと靴下も脱がせた。
そこに先輩騎手の鈴掛由文の車が通り掛かった。
「あん? あいつら、この雪ん中へたりこんで何やってんだ?」
車を近付けハザードランプを点けて 窓を開けた。
「おい。どうした?」
その声に純也が顔を上げる。
「鈴掛さん。雄太、足やったみたいで……」
鈴掛はドアを開け車から降りると、歩道に回り込んで雄太の足を見る。
(こりゃ……)
一目で酷く捻ったと分かる位に腫れていて、雄太の顔は苦痛に歪んでいた。
「とりあえず病院に連れて行くぞ。純也、肩貸してやれ」
鈴掛は後部座席のドアを開けた。
(こいつ、初騎乗決まってたよな……。間に合うのか……)
自分自身も経験があるし、騎手仲間の捻挫を何度も見て来たから分かる。
(無理……だよな……。一ヶ月で完治すれば早い方かも知れん……)