290話
(え……。こ……これ……着るの……? えっと……まぁ、うん。綺麗だし……ね。雄太くん、喜んでくれるかな?)
春香は純也に手渡された箱の中から取り出して眺める。
そして、箱にあったもう一つのプレゼントを手に取って固まった。
(え……? えぇ〜っ⁉ こ……これは……さすがに恥ずかしいんだけど……。でも、私了承しちゃった……よね……? うぅ〜)
驚きのあまりペタンと脱衣所の床に座り込んだ。手にした物は恐らく自分では絶対に買わないてあろう物。
(これ……ドン引きされない……? 大丈夫……?)
悩みながらも、とりあえず入浴を済ませたいと浴室に入った。湯船に浸かりながら延々と考え込んでいた春香は、洗濯終了ブザーが鳴ったのを聞いて決心をした。
(大丈夫っ‼ 雄太くんが待ってるんだから、早く洗濯物干して寝室に行こう)
春香はプレゼントされた物を身に着け、洗濯物を干し、戸締まりを再確認して二階の寝室に向かった。
ベッドで結婚指輪をあれこれ考えていた雄太は、ノートに拘りを書いていた。
(こんな感じで良いんじゃないかな? シンプルなのが良いと思うし。後で、春香にも見せてみよう。気に入ってくれると良いな)
カチャ
ドアの開いた音がして雄太はそちらを見た。どう言う訳だか、数センチほどドアを開けた状態で春香は部屋に入って来なかった。
「春香? どうした?」
「えっと……梅野さん達からもらったのが……その……恥ずかしくて……」
「恥ずかしい?」
雄太が帰宅した時に純也が春香に手渡していた大き目の紙袋。春香がソファーに置いていたのをチラリと覗いた時に箱らしい物が入っていたが中身は分からなかった。
(は……恥ずかしいって……。まさか、スケスケのベビードールじゃないだろうなっ⁉)
雑誌にも『特別な夜に』や『記念日には』等と書かれていた事を思い出す。
(いや……。いくらなんでも、それは……ない……よな……?)
雄太がベッドから降りようとすると、春香が小さな声で
「笑わないでね……?」
と言った。
(笑う? ベビードールなら笑わないよな?)
「笑わないよ」
雄太の言葉に、春香はドアを開けて部屋に入った。その姿に雄太は言葉を失った。
レースやフリルが付いていて、ウェディングドレスを連想させるような真っ白なネグリジェを着た春香が恥ずかしそうに笑っていた。
「メッセージカードにね、『結婚式はまだだからこれで結婚式気分を味わって』って」
(ウェディングドレスって言うより……天使みたいだ……)
雄太はベッドから降りて春香の前に立つとそっと抱き締めた。
「綺麗だ……」
「ありがとう」
いつもはパジャマを着ていた春香。初めて見るネグリジェ姿に雄太の心拍数は上がっていった。
(うわぁ……。マジ……どうしよう。ドキドキするんだけど。ヤベェ……)
腕の中で甘える春香が愛おしくなりヒョイと抱き上げた。
「え?」
「本当なら明日なんだけど、やっぱり今日が初夜で良いかなって思ってさ。ちょっとだけ格好付けさせて」
「うん」
春香は雄太の体に腕を回した。雄太はそのまま数歩歩き、ベッドに春香を横たえた。そして、そっとキスをする。
「好きだよ、春香」
「雄太くん、大好き」
雄太はゆっくりネグリジェのボタンを外して行く。
「え……」
「あ……」
雄太の手が止まって、春香が真っ赤な顔をしてそっぽを向いた。
「えっと……これも……プレゼントので……」
白いレースの付いた下着。そこまでは普通だったのだが……。
(こ……これは……所謂……紐パンと言う奴では……)
下着の横はピンクのリボンが蝶々結びになっていた。触れても良いかどうか戸惑ってしまう。
(絶対に梅野さんだろっ⁉ これ選んだのっ‼ 俺……鼻血出そう……)
ドキドキしながらリボンに手をかけてゆっくりと解く。いつも見ている春香とは違って見えた。
(スゲェ……色っぽい……)
ピンクのリボンで飾られた春香を美味しくいただき、新婚前夜は甘く熱かった。




