27話
「あ、それです。ありがとうございます」
梅野が棚から取ってくれた箱を受け取り、膝掛けにそっと触れてみる。
(柔らかいし、触れただけでも温かいな。これなら市村さんに喜んでもらえるかも)
そうは思ったが、箱の隅に置いてある値札を見て固まった。
(お……お……思ってたより……た……高いっ‼)
固まった雄太の手元を梅野が覗き込む。
「おぉ~。さすがカシミアだなぁ~。いいお値段だねぇ~」
(高い……。でも、これが良い……。でも、これ買ったら施術費の支払いが出来なくなる……。どうしよう……)
雄太が眉間に皺を寄せ真剣に悩んでいると、梅野が雄太の頭をクシャっと撫でる。
「金、足りるか? 何なら貸すぞぉ~?」
そう言って、ジャケットの内ポケットからエルメスの財布を出してニッコリと笑う。
(さりげなさもイケメン……)
今日、何度目かの敗北感が雄太を襲う。
雄太は迷いに迷って、梅野から足りない分の一万円を借り膝掛けを買う事にした。
まだ収入のない身で、先輩に借金をするのはさすがにどうかと思ったが、『どうしても』と言う気持ちに抗えなかった。
(俺、大人の女の人にプレゼント買うとか思った事なかったな……。プ…… プレゼントじゃくて、これはお詫びっ‼ 台無しにした膝掛けのお詫びっ‼ 他意はない……。他意はない……)
何度も自分に言い聞かせるように思うが、つい顔が緩む。
そんな雄太を見て、梅野はニヤニヤと意味ありげに笑っていた。
「な……何ですか……?」
雄太は、若干引き気味に訊ねる。
「べっつにぃ~」
経験上分かっていた。
梅野は後輩……特に、雄太をからかう時にはこう言う笑い方をするのだ。
(こ……この笑い方は、絶対にヤバい奴……っ‼)
何を言われるのかとドキドキしながらも、綺麗にラッピングしてもらった箱を紙袋に入れてもらい、雄太は大切そうに抱えた。
「んじゃ、行こっかぁ~。いやぁ~。若いって良いねぇ~」
梅野は楽しそうに言うと車椅子を押してくれる。
「梅野さんは、俺より三歳年上なだけじゃないですか」
「俺 、もう社会人だしぃ~。成人してるしぃ~」
そう言われて、雄太はふと気付く。
(そっか……。梅野さんと市村さんって同い年なんだ……)
そう思うと、自分よりずっとずっと大人に見えた。
(これが、大人の……社会人の余裕って奴……?)
若さで勝てる程、イケメン梅野は甘くなさそうだなと雄太は思った。




