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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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275話


 梅野は鈴掛と純也を見て頷き、ニッコリと笑ってマイクのある所に走って行った。


「御歓談中の皆様に御報告です。只今、鷹羽雄太と市村春香さんの婚約が正式に整い、結婚が決まりました。今一度、乾杯をしたいと思います」


 先程のやり取りを見ていた者達は、この先どうなるのかとやきもきしていたようでホッとした顔をして給仕の者から飲み物のグラスをもらい始めた。


 雄太と春香は純也に促され、ステージに上がりグラスを手渡された。


「皆様、宜しいですか? 二人の未来に乾杯っ‼」


 会場はこの日一番の歓声に包まれた。そして、坂野がテキパキと指示を出し、ステージの手前に長テーブルが置かれ花等が飾られて行った。


「え……? あの……坂野様……?」

「婚約発表記者会見だ。今日、ここに居る記者はツイてるぞ。他誌は書けないんだからな。だから、うちのホテルの名前をデカデカと載せてくれ」


 坂野は春香にもニッと笑い、会場が大きな笑いに包まれた。


「ど……どうしよう、雄太くん。私、記者会見なんてした事ないよぉ……」

「大丈夫。俺の馴染みの記者だし変な質問はないと思うよ」


 雄太は春香の手をしっかりと握った。


 デビュー後の雄太の注目度からして、本当に記者会見するとなると百人で済まない人が集まるだろうと春香は思った。


(それに比べたら今日は少ないし、雄太くんが居てくれるから大丈夫よね?)


 雄太は春香の手を引いてステージを降りた。恐らく結婚式用だと思われる豪華な椅子に並んで腰かける。


「鷹羽騎手、市村春香さん。御婚約おめでとうございます」

「「ありがとうございます」」


 二人揃って礼を述べ軽く頭を下げる。


「会場に入られる時に婚約者とご紹介がありましたがプロポーズはいつされたんですか?」

「菊花賞を獲った日です。G1獲ったらプロポーズするって決めてたんで」

「お付き合いはいつから?」

「昨年の10月12日からです。その前から口説いてたんですが連敗しまくってました。競馬だったら騎乗依頼が来なくなるレベルですかね?」


 雄太は笑いながら答え、その返答に記者だけでなく会場からも笑いが起こる。


「出会いと第一印象を教えていただけますか?」

「お互いを何と呼び合ってますか?」


 色んな質問をされ、答えていく内に雄太は春香が落ち着いて来たのを感じた。テーブルの下で握っていた手の震えが止まったからだ。


「お互いの好きな処を教えていただけますか?」

「いっぱいあり過ぎて困るんですが、一番は笑顔ですね。癒してもらってます。優しくて思いやりがあって、何事にも一生懸命で芯が強い処も好きですね。後、料理が美味いです」


 春香が恥ずかしそうに微笑む。


「市村さん。鷹羽さんの好きな処を教えてください」

「一番は優しくて真面目な処です。競馬に一生懸命な処も好きですし、諦めない強さや夢を追いかけている姿も好きな処です。たくさんあり過ぎて三時間の特番でも語り尽くせないかも知れません」


 会場が笑いに包まれ、照れ笑いをした雄太と春香の幸せそうな笑顔にシャッター音が響き渡る。


「お子さんの予定は?」

「今の処は未定ですね」

「市村さんは?」

「他のスポーツのようにチームが組めるような……と言う感じですとフルゲートと言わなくてはいけないのでしょうか? さすがにそれだと多過ぎて大変だと思うので、たくさん欲しいと言う事にしておきます」


 春香の発言に大爆笑する先輩騎手達。笑いが止まらなくなる記者達。


「将来、お子様に騎手になりたいと言われたらどうされますか?」

「そうですね。パパのように騎手になると言うなら反対はしません。その時にはパパは才能があった上に努力に努力を重ねたのだから、それ以上の努力をしてパパを超えて欲しいですね」

「パパを超える騎手ですか。将来が楽しみですね、鷹羽騎手」

「そうですね。子供に負けないように頑張ります」


 雄太の発言にまた爆笑が起きる。


 婚約発表会見は笑いが度々起きる和気あいあいとした物となり、記者達はホクホク顔だった。スクープが自ら転がり込んで来たのだから。





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― 新着の感想 ―
いやあ、突然始まった記者会見。 春香ちゃんも驚きですが雄太君の言葉に安心して答えていく。 さすがです!! 二人の人柄もあり終始和やかな記者会見になりましたが雄太君達に好印象の記者達は突然撮れたスクープ…
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