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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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258話


 いよいよ菊花賞が近付いて来ていた。だが、カームの出走はギリギリといった処であった。


(俺がどうこう出来る訳じゃないのは分かってるけど……)


 騎手は騎乗依頼を受けるもの。自分から『出たい』『乗りたい』と思っても言っても思い通りには行かない。それは、雄太も重々承知している事ではあった。


 レースには馬の賞金額であったり、牡馬牝馬と言う性別であったり、菊花賞等のように年齢が条件になっている物がある。全部が全部出られる訳ではない。


(大丈夫だ。カームは菊花賞だけが目標じゃない)


 菊花賞は四歳馬のレースではあるがカームにはまだ先がある。先日、純也とモニターで見た天皇賞にもカームは出られる時が来るかも知れない。


(俺はまだ十九だ。焦る歳じゃない)


 ファスナーを開けポケットに手を入れて春香のくれたキーケースを取り出す。そして、交換した藤森神社の御守りを見る。


(春香が受けてくれた御守り……。それに春香が居てくれる。焦って怪我をして春香を泣かせたりしない。よし、今日も気を付けて頑張ろう)


 雄太は気合いを入れて調教をする為に早朝のトレセンへ向かった。




✤✤✤




 11月4日(金曜日)


 金曜日の朝、調整ルームへ入るまで時間があるからと静川厩舎へ様子を見に行った。


(あれ? 調教師せんせいが居ない……。カームの事、聞きたかったんだけどな)

「おっ‼ いたいたっ‼ ここに居たかっ‼ 決まったぞっ‼」


 静川が顔をくしゃくしゃにしながら走って来た。


「え? 決まった……? カーム出られるんですかっ⁉」

「ああ。やきもきさせてすまんな。ギリギリになってしまったが出られるぞっ‼ カームと菊花賞だっ‼」

(カームと出られるんだ……。菊花賞に……)


 興奮した静川が雄太の両手を掴み上下に振っている。静川厩舎はいくつかG1馬を出しているが菊花賞やダービーは出走すら出来ていなかった。だから尚更嬉しいのだろう。


「乗り方はいつも通りで良い。雄太ちゃんに任せる。雄太ちゃんならカームの癖も分かってるだろうしな。思い切ってやってくれ」

「はいっ‼」


 雄太は返事をした後、チラリと時計を見た。


「そこの電話使うと良い」

「え?」

「調整ルームに行く前に菊花賞に出る事を市村くんに伝えたいんだろ? 一刻も早く……な?」

調教師せんせい……。ありがとうございます」


 ニヤリと笑った静川は雄太の肩にポンと手を置いて馬房へ向かった。


 雄太は立ち去る静川の背中に深くお辞儀をした。そして、店に電話をすると直樹が出た。


『そうか。決まったか。良かったな』


 嬉しそうに言った後、直ぐにVIPルームに繋いでくれた。


『雄太くん、良かったね』

「ああ。目一杯頑張るよ」

『うん。あのね、あのね。私、行くよ』


 春香の弾んだ声が耳に届く。


「へ? どこに?」

『日曜日、京都競馬場に』

「えぇ~っ⁉ そんな急に休めないだろ?」


 受話器を落としそうになるくらいに雄太は焦った。


『大丈夫。何かね、カームなら菊花賞出られるんじゃないかなぁ〜って思って11月6日は予約不可にしておいたの』

「そ……それっていつ……?」

『え? 雄太くんが菊花賞の騎乗依頼もらった日だよ?』


 雄太が菊花賞の騎乗依頼を打診されたのは10月18日。その時にはカームは出られるとは決まってなかったのに、トレセンから戻った春香は菊花賞の日を予約不可にしておいたのだ。


『もし予約入ったらテレビも見られないかも知れないじゃない? それにどうしても競馬場で応援したかったんだもん』

「いや、そもそも出られるって感じじゃなかったんだぞ?」

『うん。でも私、信じてた。カームが出られるって。それでね……。信じてる。雄太くんが最高の走りを見せてくれるって』

「春香……。ありがとう。精一杯頑張るよ」


 勝ってくれとは言わない。勝てる保証なんてないのだから。


 雄太は春香の『信じてる』と言う言葉を胸に京都競馬場へ向かった。




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― 新着の感想 ―
とうとうカームと菊花賞に出られることが決まった。 静川さんはそう報告してくれる。 そして春香ちゃんに報告を進める静川さん流石です。 そして春香ちゃんに報告するも彼女は既に予定を開けていてくれていたよう…
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