256話
10月23日(日曜日)
G2関西TVローズステークスで雄太は一着になった。それを含めて日曜日だけでも三勝。土曜日にも四勝を上げ、二日間で七勝を上げる大活躍だった。
春香と付き合っていると雄太は勝てないと悪態を吐いていた調教師達は更に声を潜めるしかなかった。
「雄太」
「雄太ぁ〜」
調整ルームで帰り支度を終えて鞄を手にした時、先に出た純也が開け放っていたドアの所から鈴掛と梅野が声を掛けた。
「絶好調だったな」
「はいっ‼」
雄太はニッと笑って小さくガッツポーズをして見せた。
「二日間で七勝だもんなぁ〜。今晩七回するんだよなぁ〜」
「へ? な……な……か……い……?」
「おい……」
梅野がウキウキした声で訊ねると雄太はガッツポーズのまま固まり、鈴掛は呆れた。
「な……何で、そんな話になるんですかっ⁉」
「え? 一勝につき一回するんだろぉ〜? なら、七勝なんだし七回じゃないかぁ〜」
当たり前の事をなぜ訊くのかと言った風に梅野は真顔で答えた。
「七回……。腰が砕けそうだな……」
「鈴掛さんっ‼ 真剣に考えないでくださいっ‼」
鈴掛が顎に手をあてながら目を閉じてしみじみと呟いた。
「違うのかぁ〜?」
「どこからそんな話が出て来たんですかっ⁉」
「勝利のご褒美的な奴だろぉ〜?」
いつの間に雄太が一つ勝鞍を上げると一回すると言う話になっていたのかと訊ねるが、梅野の真剣な顔は崩れなかった。
「雄太。程々にしないと干からびるぞ?」
「ちょっ‼」
鈴掛までそんな話を信じているのかと雄太は焦った。
「勝鞍一つで一回ってモチベーション上がらね?」
「ソルっ‼ お前、帰ったんじゃ……」
「面白そうな話が聞こえて来たから戻って来た」
「あのなぁ……」
雄太と鈴掛が居ないのを良い事に『勝鞍一つで一回』と純也と梅野が小倉の調整ルームで話していたのだった。
ツッコミ役が居ない状態と言うのもあり、盛り上がりまくったのは言うまでもない。
「減量には効果的だろうけど、日曜日から月曜日に掛けて減量って早過ぎだろ?」
「鈴掛さん……」
「逆にゲッソリして火曜日から増やすって感じじゃないんですかぁ〜」
「梅野さん……」
「腰がダルくなっても市村さんにマッサージしてもらえるから安心っすよね」
「ソル……」
雄太は脱力して、壁にもたれて座り込んだ。
(何で、一滴も呑んでない素面で、こんな話で盛り上がれるんだよっ⁉)
「七回もしたら市村さんがグッタリしそうっすけどね〜」
「一晩に七回だとなぁ〜。今晩四回で明日の朝三回なら大丈夫かもなぁ〜。なぁ、雄太ぁ〜」
純也と梅野が嬉々として雄太を見た。
「勝手に七回するって決めないでくださいよぉ……」
脱力したままで雄太が不平を訴えると
「え? じゃあ一晩に何回してんの?」
と、純也が前のめりになって訊ねて来た。
「普通言わないだろっ‼」
雄太が言うと梅野が
「え? 言わないかぁ〜?」
と答えた。
「梅野さんは言いそうっすね」
「そりゃなぁ〜。んでさぁ〜。グッタリさせて『もう許してぇ〜』って言われたくないかぁ〜?」
真顔の梅野のセリフに頭がクラクラする気がしながら雄太は立ち上がった。
「もう良いです……。好きに言っててください……。俺、帰ります……」
フラフラと部屋を出た雄太に梅野はニッコリと笑いながらとどめを刺した。
「ちゃんとゴム買って帰れよぉ〜」
雄太は壁に張り付きたくなる気持ちを抑えて調整ルームの建物を出た。
(七回……。さすがに七回はしてないからっ‼ ……って言ったら、また『何回?』って訊かれそうだもんな……。あ……)
春香が休みを増やそうかと思っていると言った時、自分が
『か……回数減らした方が良い……?』
と、言ったのを思い出した。
(俺の回数が多い訳じゃないっ‼ 一週間分まとめてシテるだけなんだ。だから多く思えるたけだっ‼)
そんな誰に聞かせる訳でもない言い訳をしながら、春香の待つ家に向かってウキウキと車を走らせた。




