25話
10時半を少し過ぎた頃、先輩騎手の梅野真希が雄太の自宅を訪ねて来てくれた。
「雄太ぁ~。今日、東雲に行くんだろ? 俺も予約してるから連れてってやるぞぉ~」
雄太は、昨日は通りがかりとは言え鈴掛に迷惑をかけ、今日も先輩の世話になる事に恐縮してしまう。
「良いんですか? 俺の予約12時ですけど……」
「俺も12時だしぃ~。てか、何で純也が居んのぉ〜?」
雄太の言葉に梅野はニッコリ笑って答えた後、まるで自宅のようにくつろぎゴロゴロと寝転がっている純也をツンツンとつつく。
「雄太ン家は居心地良いんす~。ガキの頃から入り浸ってるし、俺ン家みたいなモンなんす。だから、俺が居るのは当たり前っちゃあ当たり前なんす~」
そうは言ってはいるが、本当は雄太が心配であり、東雲から戻った後に一度着替えに寮に戻り、その後雄太の自宅に来て何かと世話をやいてくれていたのだ。
そうは言わないのが 純也の良い所だ。今朝も厩舎の手伝いが終わってから様子見に来てくれていた。
そして『ついでだから』と、自ら送迎を申し出てくれている梅野も、優しく頼れる良い先輩である。
雄太と純也にとっては『良き兄貴分』と言った感じかも知れない。
「純也も行くかぁ~? 待ってる間、暇かも知んないけどぉ~」
梅野に訊かれ純也は少し考える。
「ん~。今日はパスするっす。眠いんすよ~」
と言って、毛布にくるまって昼寝の体勢に入った。
(昨日、帰って来るの遅かったもんなぁ……。足が治ったら飯でも奢ろう。てか、俺は出かけんだからベッド使えば良いのに)
雄太は、なぜか毎度ベッドの傍で丸まって寝る親友を見る。
すると純也はピョコッと右手だけを毛布から出した。
「市村さんに膝掛けの新しいの買って返すの忘れんなよ~」
純也が言うと、梅野は部屋の隅に置いてある膝掛けを見た。
「膝掛けってあれかぁ〜? 市村さんに借りたのかぁ~」
訊ねられた雄太は頷く。
昨夜の帰り際
「患部は冷やした方が良いですけど、他の筋肉は冷やさない方が良いですから」
春香はそう言って、私物の膝掛けを 雄太のむき出しになった左足に巻き付け、セロテープでグルグルと固定してくれたのだった。
帰宅後、丁寧にセロテープを剥がそうとしたのだが、所々ふわふわした毛が抜けてしまい、洗って返すのも申し訳ない状態になってしまっていた。




