240話
だんだんと 蒸し暑さが増す季節になり、雄太は悩んでいた。
(ん〜。一ヶ月か二ヶ月の間滋賀を離れる事になったら、春香のマッサージなしなんだよな。筋肉に疲労が溜まるの不安だなぁ……。だからと言ってマッサージの為に滋賀に帰って来たら、春香が移動での疲れが出るんじゃないかって心配しそうだし……。札幌や福島や小倉でも騎乗依頼もらえるのは感謝すべき事だからな。けど、中京での開催もう終わるしなぁ……)
悩んだ処で騎乗依頼に左右されるのだから仕方はない。7月の3週目からは札幌と小倉と福島の三場開催になっている。
(悩んでも仕方ない。今の俺は頑張るしかないんだからな)
そして、春香も悩んでいた。
(雄太くんの夏用のパジャマ買わないとなぁ〜。この前、少し暑いって言ってたし。かと言ってエアコンを点けっ放しにするのも体を冷やし過ぎにならないか気になるし……。やっぱりエアコンと扇風機の併用で冷し過ぎないようにした方が良いよね)
パジャマと言っても、雄太は冬はスウェット。夏はTシャツに短パン。部屋着と区別が付かない物を好んで着ていた。春香の自宅にも冬用のスウェットと秋春物の薄手のスウェットが置いてある。
(確か駅前のお店の紳士物を売ってる所にTシャツと短パンのセットの奴が売ってたはずだし、お昼休みにでも買いに行こうっかな。部屋着っぽいのは私でも買えるもんね。……パンツは恥ずかしくて買えないけど……)
雄太の部屋着等は一緒に買いに行ったりもしていたが、デートを優先したいと思った時は春香が平日に買ったりもしていた。
(雄太くんの物を買うのって結婚したみたいで、ちょっと嬉しいんだよね。雄太くんには恥ずかしくて言えないけど)
きっと雄太が聞いたら嬉しさのあまり思いっきり抱き締めそうだが、恥ずかしさの方が勝ってしまい内緒にするのが春香らしい。
昼休みに雄太の夏用のパジャマや部屋着を買い、食品売り場に行き色々と買い込む。それも、春香にとって嬉しい事だった。
(まだ少し早いかも知れないけど、もう夏バテ対策しなきゃね。体力付けて頑張ってもらいたいもん)
普段は体重管理しなければならないが、雄太は春香と一緒の時はあまり気にしないようにしていると言っていた。だからと言って純也のようにガッツリ食べる訳ではないが。
「春香と一緒に居る時は食事を楽しみたいんだよ。増えた体重は火曜日から落とせば良いだけだし。今まで体重落とせなかった事ないし、あんま気を使い過ぎなくて良いよ」
雄太は元々太る体質ではないらしい。だからと言って春香は体重管理を軽視したくなかった。旨味を逃さない程度に脂質を落としたり工夫をこらしていた。
日曜日の夕飯には雄太のリクエストで唐揚げにしている事もある。今回も調整ルーム入りする前日の夜に電話があった。
『春香。日曜日の夕飯、唐揚げが食べたいんだけど』
「うん。分かったぁ〜。じゃあ、明日材料買いに行って漬け込んでおくね」
『ありがとう。頑張って来るよ』
「うん」
今週末も中京競馬場で騎乗依頼があるので、帰って来るのは全てのレースが終わり約二時間後。その時間に合わせて夕飯の準備をする予定だった。
(今週末のレースが終わったら遠征かぁ……。しばらく会えなくなるのは淋しいけど、雄太くんの仕事を分かった上でお付き合いしてるんだもん。我慢しなきゃね)
我慢しなければならないとは思うが、やはり淋しいと思ってしまう。日曜日から月曜日までの二人で過ごせる時間は雄太にも春香にも掛け替えのない物になっている。
年末に雄太が泊まりに来た時は、次はいつになるかと思っていたが、今では当たり前のようになっているから尚更しばらく会えないのが淋しいのだろうなと思っていた。
(日曜日と月曜日は、ちょっぴり甘えさせてもらおうっと)
春香が甘えると雄太には効果があり過ぎるのだが、それを理解していない春香は
(どんな風に甘えようかなぁ〜。えっとぉ……)
等と呑気に考えながら買い物をしていた。




