238話
雄太と腕を組んで歩きながらチラチラと雄太の顔を盗み見る。そして、昨夜の雄太を思い出した。
(うきゃあ〜。何で、今思い出すのぉ〜)
初めて夜を共にした時は余裕がなかった雄太を、最近は少し大人っぽく感じていた。
(男の雄太くん……。ん……。あれって男の色気……って言うのかな……? 見てるとドキドキしちゃうんだよね……)
優しい顔をしている時とのギャップを感じ、思わず歩きながらジッと顔を見上げていた。
「ん? どうかした?」
「え? あ……見惚れてたの」
「へ? 何に?」
「雄太くんに」
頬を赤らめながら言われて雄太も少し赤くなった。
「ど……どうしたの? 突然」
「えへへ。つい」
(私、これからも雄太くんを好きって気持ち増えて行くんだよね。雄太くんも同じ気持ちだったら嬉しいな)
組んでいる腕にそっと顔を寄せている春香の姿に、雄太は自然に甘えてくれるようになった嬉しさで胸がいっぱいになった。
参拝をして、絵馬を奉納しようとして二人は悩んでいた。
(何て書こうか……。二人で幸せになりたい? 春香と結婚したい? ずっと二人でいたい? んん〜)
(G1で一着獲れますように……? 勝鞍をたくさん上げられますように……? 雄太くんが勝った処をたくさん見たい……?)
雄太と春香はペンを片手に真剣な顔をしていた。
(あ……私が一番思ってる事を書こう)
『無事にレースを終えられますように』
その文言を見て雄太は、いつも自分の無事を祈っていてくれる事を嬉しく思った。
『たくさん勝鞍を上げて二人で喜びを分かち合いたい』
(これだな。勝鞍を上げる事は春香にプロポーズするってのも含まれてるし、これなら春香にバレないしな)
お互いの絵馬を見て笑い合った。
絵馬を奉納して、御守りを受ける。そして、交換をした。
(春香の願いが叶いますように)
(雄太くんの願いが叶いますように)
お互いの思いが叶えばお互いの為になると知っている。二人はキーケースを取り出して御守りを付けた。
春香の使っていたキーケースはミナに切り裂かれたので、雄太が新しいのをプレゼントしたのだ。
「これ……雄太くんとお揃いの……」
手渡されたのは春香がバレンタインデーに雄太にプレゼントした物の色違いのキーケースだった。
お揃いのキーホルダー等は持ててもあからさまなペアの服は恥ずかしさが勝ち、シンプルなペアルックに思われないスポーツブランドのTシャツくらいしか持ってない二人だった。
「そう。これは退院祝いな? お揃いを持とう」
「うん」
雄太は詫びとは言いたくなかったので退院祝いとした。春香は喜んで新しいキーケースに鍵とお揃いの蹄鉄のキーホルダーと紐を新しくした淡島神社の御守りを付けた。
そして、今日は藤森神社の御守りを付けた。
「よし。じゃあ、昼飯行こうっか?」
「うん」
二人は市内の昼もやっている鉄板焼の店へと向かった。
前まではファミレスが良いと言っていた春香だが、今日も思ったように雄太が注目を浴びる事を気にしていた。
「もうファミレスは行かない? どうして?」
「だって、たくさんの人に顔を見ただけで『騎手鷹羽雄太』って知られるようになったじゃない? ファミレスとか行ったら雄太くんがケチって思われるかも知れないし……」
「春香は、ファミレス好きだろ?」
雄太自身、重賞を獲るようになり注目されているのは分かっていたが、春香がリラックスして食事がしたくて行っていたファミレスに行かないのはなぁと悩んだ。
「好きだけどぉ……。でも、やっぱりそれなりのお店にしない? 贅沢って思われるのは嫌だし、それなりのお店が良いな」
「そっか。分かった」
雄太も収入が上がり、最高級店と呼ばれる所でも大丈夫にはなったが、春香同様あまり贅沢をするつもりのない雄太は『それなりの店』に行く事にしたのだ。
堅苦しくなくドレスコードが必要ない店が良いと二人の意見が一致したのは言うまでもない。




