23話
翌朝午前6時
シンと静かな部屋で春香は目を覚ました。
神の手を使った翌日にいつも感じていた怠さに加えて、何か違う感じがした。
(何か……いつもと違う……?)
それが何か分からないまま洗面所に向かい冷たい水で顔を洗う。ふと顔を上げ鏡に映る自分を見た。
愛される事なく育ち、金ヅルにされ捨てられ、また金ヅルにされ、嘆き悲しみ諦めて生きて来た。
疲れている時には、必ずそういった負の感情が顕著に顔に表れていたのが、少しマシになっている気がした。
(昨日は自然に笑えてたから……かな……?)
昨夜の三人のやり取りを思い出す。親戚のお兄さんを慕う子達と言う感じの微笑ましい様子。
勝負の世界で生きている人とその世界へと進もうとしている人達とは思えない、明るく優しい空気感。
羨ましくもあり眩しい、自分とは縁のない世界。それを、眩しくて直視出来ない自分。
(やめよう……。いくら考えても どうにもならないんだから……)
どうやっても過去は変えられない。
未来は変えられるかも知れないが、暗く重い過去が足枷になるのは分かっている。
(今、私に出来る事を精一杯やるだけ……。頑張ろうね、私……)
鏡に映る自分を励まして、目を閉じた。
午前9時30分
店内に入りセキュリティを解除する。
近所の幼稚園から聞こえて来る子供達の無邪気な声。どこからか聞こえて来る小鳥のさえずり。
そんな音をBGMにしながら、受付カウンターに飾ってある花瓶の水を変え茎を水切りして花を生け直す。
ホウキと塵取りを持って店外に出て掃除をする。
その後、ポストから複数の新聞を回収して、店内の新聞ホルダーにセットしていく。
誰より早く出勤して店内外を整えていくのは春香の仕事になっていた。
自分を煙たがっている同僚達が居るのは知っている。
『春は この店の稼ぎ頭なんだから 堂々としていたら良いんだぞ?』
何度も直樹には言われたが、無用な衝突は避けられるなら避けた方が良い。
大抵の女性マッサージ師は、結婚や妊娠で退職して行く。自分が一番年上になれば少しはマシになると思っていた。




