21話
(バカか、俺は……。『良いな』ってなんだよ。もう、あんな思いはしたくないはずだろ……)
チラリと雄太の脳裏に去って行った元カノの顔が浮かび、頭を振った。
「で、鈴掛さん。あの市村さんって人の治療費って、いくらなんすか?」
純也はパフェの底に入っているコーンフレークを掬いながら訊く。
純也の問いに雄太は真顔になる。
「純也。その訊き方だと春香ちゃんが治療されたみたいだろ。それと『治療費』じゃなく『施術費』な?」
鈴掛はヤレヤレといった顔で座り直す。
雄太はドキドキしながら鈴掛を見た。
「春香ちゃんの施術で一番高いコースは基本料金30分100万円だ」
鈴掛はサラッと言う。
「ひゃっ……100万円っ⁉ 俺、払えないですよっ‼」
雄太は驚いて、テーブルに手をついて立ち上がりかけた。
「こら、立つなっ‼ せっかく痛み治まって来てんのに、足に負担かけんじゃねぇ」
鈴掛は腰を浮かせて、立ち上がりかけている雄太の肩をポンポンと叩く。
「あ……。はい……」
足首にピリリと軽く痛みが走り、雄太はゆっくりと座る。
純也は口をあんぐりと開けて固まっていた。
(父さんに言えば出してくれるだろうけど……。『デビュー日を遅らせたくないから100万円出してくれ』ってのは……どうなんだろ……。確かに俺はまだ学生だけど、もう社会人になるんだぞ……?)
雄太は真剣に悩んだ。
「『基本料金30分100万円』ってのは、しつこく施術を迫って来る奴等向けの撃退料金だ。安心しろ。お前に撃退料金を請求する訳はない」
鈴掛は、雄太が座ったのを確認すると、またコーヒーを一口飲んだ。
「撃退料金って、虫除けとか殺虫剤みたいなモンすか?」
純也がパフェを食べていたスプーンを握りながら訊く。
「まぁ、そんな感じだ。安易に神の手に縋ろうとする連中ならドン引きする金額だろ?」
雄太と純也はうんうんと頷いた。
「まぁ、ごくたまにその料金を出す奴も居るようだし、それ以上の料金を出すから出張してくれとか言う奴も居るって直樹先生は言ってたがな 」




