213話
春香を家に送り届け、自分の車に乗り換えた雄太は、久し振りに実家に顔を出した。
タイミング良く慎一郎は居ないようで車がなかった。ホッとして玄関ドアを開けリビングに向かうと雄太に気付いた理保がニッコリと笑った。
「母さん。これ、お土産なんだ」
雄太は土産として買って来た干物等の入った紙袋を差し出した。そして、理保の向かい側のソファーに腰掛けた。
「あら、こんなにたくさん。ありがとう。どこに行って来たの?」
「春香と和歌山に行って来たんだ」
理保は彼女を連れてデートに出かけるようになった息子が大人びて見えた。
「それと、これは春香から」
ポケットに入れていた御守りの入った紙袋を差し出した。
「まぁ、春香さんから? 加太淡島神社?」
「うん。女性を守ってくれる神社だって言うから春香を連れて行きたいって思ってさ。そしたら、母さんの分は自分が受けたいって」
理保は御守りの入った紙袋をジッと見詰めた。
(雄太が言ってたように、本当に優しいお嬢さんなのね)
惚れた欲目で彼女を良く言う事もある。だが、不器用までに純朴な雄太が自分に嘘を言うとは思っていなかった。
「母さんに会いたがってたよ」
「そうなのね。母さんも春香さんに会いたいわ」
理保は御守りの入った紙袋に書かれた『なるべく早く御挨拶に伺いたいと思っています』と書かれた文字を見て理保はニッコリと笑った。
(真面目な性格なお嬢さんなんでしょうね。雄太の部屋にあったメッセージカードもだけど、綺麗な文字に性格が表れてる気がするわ。お付き合いを始めて間がないのに気遣いも出来るなんて良い子に間違いない……そうだわ。訊いておかなきゃ)
理保は顔を上げて雄太を見た。
「雄太」
「え? 何?」
理保の真剣な顔に、雄太は何事かと思った。
「春香さんの御両親にお会いした事はあるの?」
「あるよ? 付き合うって決めた時に了承をもらったし」
雄太は直樹達と会ったりした話をしてなかったかなと思った。
「何もおっしゃらなかったの?」
「どう言う事?」
理保が心配そうに眉をひそめている。
「雄太が競馬関係者……しかも騎手って仕事をしている事をよ」
競馬はギャンブルである。公営とは言えギャンブル。毛嫌いする人も居ると言う事を知っている理保は心配しているのだ。
「あぁ、そう言う意味か。大丈夫だよ。春香の両親は俺が騎手だって事は知ってるんだ」
「そうなの?」
ホッとしたような顔をした母を見て、気苦労掛けてると雄太は申し訳ない気がした。
(俺が落馬したりしないかとか、母さんにも心配かけてんだよな。親孝行しないとなぁ……)
春香にも理保にも心配させていると思った雄太は今以上に気を付けなければと思った。
「そこは心配しなくても良いよ。一緒に飯食ったりもしてるしさ。それじゃ、父さんと顔を合わせたくないから、もう行くよ」
自分の誕生日。しかも、春香と幸せな時間を過ごした後に父と喧嘩したくないと早々に雄太は立ち上がった。
「そうね。お土産ありがとう。春香さんにも宜しく伝えておいてね」
「うん。じゃあ、また来るから」
寮に帰った雄太は純也達にも土産物を渡し、風呂を終えて自室に戻るとゴロリと横になった。
(あ〜。本当、楽しかったな)
目を閉じて春香の笑顔を思い出す。
(思ってた以上に喜んでくれたしな。また、どこか遊びに連れてってやろう。しょっちゅうは無理だけどさ)
子供のようにはしゃいでいた春香の笑顔を見ているだけで心がポカポカするのだ。
(春香と母さんって、上手くやれそうな気がするんだよな。……二人して俺の人参嫌いを治そうとしないと良いんだけどな……)
二人でキッチンで作戦会議をしている姿が想像出来た。
(すりおろせば大丈夫〜とか何かやりそうな気がするぞ……。俺、二人掛かりだと負けるよな……)
楽しそうな二人を想像するのは楽しいがタッグを組まれるとヤバそうだなと思う雄太だった。




