209話
記者達のアポなし取材された翌日、雑誌社から丁寧な謝罪の電話があった。
直樹が受けた電話だったが、隣に居た里美が
「ごめんで済んだら警察は要らないのよね」
と言ったからか数日後、謝罪文が届き、更に数日後宅配で菓子折りが届いた。
怒り心頭だった里美は菓子折りを受け取り拒否し送り返した。
(春は……里美に似たんだな……)
直樹はにこやかに配達員に送り返しを申し出ている里美を見ていた。
(里美も春もナチュラルに慇懃無礼が出来るんだよな。俺も見習いたいもんだ)
その後、またもや雑誌社から電話があり謝罪に行きたいのでアポを取りたいとの申し出があったが、里美はキッパリと断っていた。
余程、大株主の大河内や財界の大物連中が怖いのであろう。何度か謝罪の機会をと申し出があったが頑として首を縦に振る事はなかった。
「そもそも、電話で謝って終わりにしようとしたところからして気に入らないのよ。そう思わない?」
里美は電話を切った後、隣でシフトを組む作業をしていた直樹の方を見ながら言った。
「まぁ……な」
最初の電話でアポを取らなかった事からして間違っていると里美は何度も繰り返し言っていた。
それは、春香も同じだったらしく謝罪を拒否する姿勢でいた。
(昨日、調整ルーム入りする前の電話があったはずだけど春は鷹羽くんに話したのかな……?)
直樹から訊くのもどうかと思っていて訊ねる事はしていなかった。
(春は頑固だからなぁ……)
迷いの多い春香だが、こうと決めたら梃子でも動かない。初めて雄太のレースを見に競馬場に行くと言い出した時の事を思い出して直樹は笑った。
(う〜ん……。初めて雄太くんの誕生日をお祝いしたいのに良いプレゼントが思い付かない……。もう直ぐなのに……)
取材拒否をした事よりも、春香は雄太の誕生日の事で頭がいっぱいだった。
雄太の誕生日はホワイトデーである3月14日。
『ホワイトデーのお返しは色々考えてるからな』
昨日、調整ルーム入りする前の電話でも言われた。
雄太にとって、自分の誕生日より春香へのプレゼントの方が大切なようだった。
「雄太くんの誕生日のプレゼントなんだけど……」
『ん? 考えておくよ』
何度訊いてもはぐらかされていた。
(買わなくても良いって事なんだろうけど……。じゃあ、何か買わなくても良いプレゼントを考えた方が良いのかな)
もう直ぐだと言うのに雄太は一度も明確な答えをくれなかった。
(スケスケのベビードールって言われたらどうしよう……)
バレンタインデー前に話していた事を思い出しては顔を赤くしていた。
年末に雄太と初めて夜を過ごしてからは、何度もシテいる。だから、スケスケであっても、何かを身に着けていると言う分にはベビードールでも裸ではないとは思う。
(でもなぁ……。スケスケのベビードールって裸よりエッチな感じするんだよね……。雄太くんが、どうしてもって言ったら……どうしよう……?)
恋愛経験すらなかった春香に男性の心理は分からない。スケスケのベビードールと言うのは、男性が誰でも嬉しい物なのかも分からない。
(もし……もしも、私がスケスケのベビードールを買って持ってたら、雄太くん私の事を変な子だって思わない? エッチな子だって思って嫌われたらどうしよう……)
春香には『雄太に訊く』と言うのはハードルが高過ぎた。
ましてや、自らスケスケのベビードールを買って、それを身に着けて雄太の前に出ると言うのは清水の舞台どころの話ではなかった。
(もし雄太くんがスケスケのベビードールを着て欲しいって言ったら、雄太くんに買って来てもらおう。そうしよう。私、未だに雄太くんのパンツも買いに行けないのに、スケスケのベビードールなんて買いに行けない……)
雄太が聞いたら吹き出して固まりそうな事を考えていた春香だった。
雄太の誕生日である3月14日はもう直ぐだ。




