19話
(鷹羽さんの足、明日までにどれだけ回復してるかな……。焦る事情があるみたいだし、早く治してあげなきゃ……)
いつもなら理由を訊く事もないのだが、なぜか気になった。
(私が見る事も出来なかった夢を持ってる人……。夢を叶えようとしてる人……だからかな……)
春香は、受付表の施術担当者の欄に『市村春香』と記入し、雄太の名前の下のID欄に『A1051991』と記入した。
(これでよし…… と。早く洗濯済ませなきゃ。明日も仕事になったし)
春香は、タオルの入ったバスケットの上にバインダーを置き、それを抱えてVIPルームを後にした。
東雲マッサージ店を出た三人は、夕食時刻を過ぎ客の少なくなったファミレスに居た。
車に乗った途端、純也が
「鈴掛さぁ~ん。俺の腹の虫が大合唱やめてくんないっすぅ~」
と情けない声を上げたからだ。
「この時間に食って寝たら太るんだから軽くだぞ?」
とは言ったものの、食べ盛りの若い男が軽くだと空腹で寝られないかもなと鈴掛は思った。
「ファミレスで良いか?」
バックミラー越しに訊くと 純也は
「はいっ‼ はいっ‼」
と手を挙げて返事をするが、雄太は窓の外を見ていて答えなかった。
(雄太の奴、ずっと だんまりだな……)
「雄太。ファミレスで良いか?」
少し大きめの声で訊くと、ようやく気付いたのか、雄太は苦笑いを浮かべながら
「え? あ、はい。俺も腹ペコです」
と答えた。
「何考えてたんだよ?」
純也は雄太の肩をつつきながら訊いた。
「うん……。まぁ……な」
雄太は曖昧に答えると、また窓の外を見た。
「お前……体、絞れんのか?」
雄太と鈴掛はサラダなのに、純也は一番大きなハンバーグセットをがっついていた。
時刻は21時を過ぎている。
「俺は余裕あるから、今日ぐらい食っても大丈夫っす」
「あ~。はいはい」
純也の発言に、鈴掛は呆れたように答えた。
(純也の大食いも問題っちゃ問題だけど……)
鈴掛はチラリと雄太を見る。
雄太はうつむいてチキンサラダをフォークでつついてるだけで、殆ど食べていないようだった。




