193話
1988年1月1日
昨日、カーテンを閉め忘れた窓から明るい日が射し込んでいた。
(ん……。ん? あ……)
目を覚ました春香は、隣で眠っている雄太に気付きジッと見詰めた。
(私……雄太くんと……)
体に残る軽い痛みとかなりの怠さ。
そして、隣で眠っている雄太。
昨夜の事を思い出すと顔が熱くなる。
(一生……こんな事経験するはずないって思ってたのに……)
マッサージをする時に見ていた体とは違って見えた。
細身なのに、しっかりと筋肉のついた体に男を感じてしまいドキドキしてしまった。
「雄太くん、大好き」
裸の胸に顔を寄せて呟いた。そして、胸元にキスをした。
「俺もだ」
「ふやぁ〜」
突然聞こえた声に驚き変な声が出た。
「お……起きてたの……?」
アワアワとして逃げようとするとガッシリと抱き締められた。
裸のままだと気付くと顔が熱くなる。
「春香が可愛いから見てた。で、もう終わり?」
「雄太くんのエッチ。意地悪。……でも好き」
(あぁ……。本当、たまんないぐらいに可愛いんだからな)
腕の中に居るのは生まれたままの姿の恋人。
二人で初めて夜を過ごし、初めて朝を迎えた。
(もう一回シタいけど、昨日の痛みが残ってたらつらいだろうしな。今日は我慢しよ)
そっと春香のオデコにキスをした。
「春香。明けましておめでとう。今年もよろしくな」
「明けましておめでとう。今年もよろしくね」
(裸で抱き合って新年の挨拶を交わすなんて、この先あるのかなぁ……? 毎年、こんなのも良いけど。うん。今年の年末もお泊りして、二人で新年を迎えよう)
雄太は正月早々煩悩まみれの想像をしていた。
「雄太くん。シャワー浴びる? 汗かいたまま寝ちゃったし」
「あ〜。そうだな。春香は?」
「私もシャワーしたいな。朝ご飯の準備前に」
『一緒にお風呂』と言うパワーワードが頭に浮かぶが、春香の体の事を考えて自重した。
「じゃあ、春香が先な?」
「そうするね」
モゾモゾと起き上がりベッドから下りた春香の体をじっくりと見る。
昨夜は薄明かりの中でだったが、朝日が射し込む部屋で見ると春香が『施術は格闘技』と言っていたのが分かる気がした。
(スリムだけどただ細いってのじゃないな……。アスリートって感じじゃないか? 特に腕とか足の感じは……)
腕や足のラインは程よい筋肉がついていてた。大きな胸の柔らかさに気を取られていたが引き締まった腹筋と滑らかなカーブを描くウエストのラインがゾクゾクするくらいに綺麗だった。
昨夜、自分が付けた胸元のキスマークが色っぽさに輪をかける。
「ん?」
雄太の視線に気付き、昨夜脱ぎ捨てたパジャマで体を隠した。
(あ……隠した)
「は……恥ずかしいってばぁ……」
春香は慌ててクローゼットを開けて着替えを手に取ると寝室から出て行った。
(ん〜。可愛いな。まぁ、いきなり堂々とするよりは良いよな。ん……?)
春香が慌てていた所為で中途半端に開いているクローゼットの中に目が行った。
クローゼットの右側に積み上げてある箱。その一番上から落ちかけていた物。
(あれって……)
雄太はベッドから降りて、落ちかけていた物を手に取った。それは、競馬新聞だった。
(何で……競馬新聞が……)
一面から雄太の名前に赤いペンで花丸が付けてあった。開いてみても、雄太の名前に花丸があった。
(もしかして……)
下の箱を開けて取り出してみると、そこにも雄太の名前に印がつけてあった。
日付けを見るとかなり前の物だった。その下の箱を開けると付き合う前の日付けの物があった。
(春香……。俺と付き合う前から、こうやって新聞を買って印を……)
ずっと応援していてくれたんだと思うと胸が熱くなった。
(きっと、俺には言ってくれないだろうなぁ……。可愛いいんだから)
嬉しさを噛み締めながら、競馬新聞を元に戻した。




