表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

194/738

190話


(は……初めてパジャマ姿の春香を見るんだ……よな……。女の子のパジャマ姿……。想像しただけで……ヤバいぞ……)


 心臓がバクバクと音を立てる。


(落ち着け、俺……。落ち着け、俺……)


 そう思って何度も何度も深呼吸をする。それでも、中々落ち着かない。


(絶対にっ‼ 絶対にガッついたら駄目なんだぞ……? 優しく優しくしないとな……?)


 しばらくしてドライヤーの音がやみ、脱衣所のドアが開いた音がして足音がした。そして、リビングのドアが開いた。


(あ……。可愛い……)


 水色のフワフワした生地のパジャマを着て、髪をゆるい三つ編みにした春香がこちらを見て笑った。


 ドクンドクン


 雄太の心拍数が跳ね上がる。


(髪を下ろすとこんな感じなんだ……。ポニーテールも良いけど、こんな感じの髪型も可愛くて良いな……)


 髪が長いと色々アレンジが出来ると言う事に今更気付いた雄太。


(また違う髪型も見たいなぁ〜。本当なら正月は着物を着るって言ってたっけ? 着物姿も見たいなぁ……。浴衣とかも良いよな。夏祭りとかは……無理だよな。いや、日曜日レースから帰って来てから行けるお祭りもあるかも知れない)


 色々と妄想は膨らんで行く。


(あ……そうだ)

「アイスコーヒーありがとう」

「うん」


 春香は笑顔で答えると冷蔵庫に向かい烏龍茶をコップに注いで、雄太の隣に座った。


 その瞬間、ふんわりとシャンプーの香りがした。それだけで、また緊張してしまう。


(えっと……えっと……)


 何か話そうとは思うのだが、緊張からか言葉にならない。


(何か……。何か言わなきゃ……。何にも思い付かないっ‼)


 春香も同じなのか黙って烏龍茶を一口飲んだ。


(俺、本当ダメダメだな……。上手く話が出来ない……。何も思い付かない……。梅野さんだったら、こう言う時、何て言うんだろ……? 参考に訊いておけば良かった……)


 その時、除夜の鐘が鳴り始めた。


「あ……1987年が終わるね」

「ああ」


 毎年聞いていた除夜の鐘が、いつもと違って聞こえる気がした。


「なぁ、春香」

「なぁに?」


 雄太は持っていたアイスコーヒーのグラスをテーブルに置いた。


 そして、春香の方を見る。春香も雄太を見上げた。


「俺と出会ってくれてありがとう。俺を好きになってくれてありがとう。俺と一緒に夢を追い掛けてくれてありがとう。今ここに居てくれてありがとう」


 雄太の言葉に春香の目が潤む。


「雄太くん、私が言いたい事を先に言っちゃうんだもんな」


 春香は烏龍茶のグラスをテーブルに置いて雄太の手を握り締めた。


「雄太くん。私を好きになってくれてありがとう。私を暗闇から引き上げてくれてありがとう。私に人を好きになる事を教えてくれてありがとう。私の傍に居てくれてありがとう」


 雄太もギュッと春香の手を握り締めた。


 初めて会った時には想像もしなかった。


 あの日、雪が降ってなかったら……。

 

 雄太が捻挫しなかったら……。


 春香がマッサージ師になっていなかったら……。


 今、こうして二人で除夜の鐘を聞いている事はなかった。


「俺、春香に出会えて本当に良かったって思ってる」

「私も。雄太くんと出会ってなかったら知らない事だらけだったよ」


 たくさんの分岐点を経て、今ここに居て、お互いを大切に思っている事は奇跡かも知れない。


 雄太が立ち上がり、春香の手を引いた。それが、どう言う意味か分かっている春香はゆっくりと立ち上がった。


(大好きだから……傍に居たい。大好きだから……傍に居て欲しい。大好きだから……春香の全部を俺のものにしたい……。誰にも渡したくないから……)


 春香を見ると頬が赤くなっている。風呂上がりだからだけじゃない。


 雄太はドキドキしながら寝室のドアを開けて、春香はリビングの照明を消した。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ドキドキ神回ですねえ(๑º º๑) これは二人の本当の気持ちを語り確かめ合い。 素晴らしき二人にどうか幸運を°・*:.。.☆ 続きも楽しみです!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ