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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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189話


 雄太が風呂に入っている間に夕飯の片付けをしていた春香は、自分の手が震えている事に気付きギュッと握り締めた。


(大丈夫……。大丈夫……。雄太くんとなら大丈夫……。雄太くんだから大丈夫)


 何度も呪文のように繰り返した。





 雄太が風呂から出ると春香の姿はリビングにはなかった。


(ん? どこに……)


 見回すとリビングの隣の部屋のドアが開いていた。


 施術用の部屋とリビングダイニング以外の部屋に入った事がない雄太は一瞬躊躇(ためら)ったが、そっと覗き込んだ。


「春香?」

「あ、雄太くん」


 その部屋は春香の寝室だった。ドアから見て左側にセミダブルのベッドがあり、右側には大きな扉があった。


 その部屋でレースのカーテンを少し開け覗き見をするように外を見ていた。


「どうかしたのか?」

「ううん。昼間の車の事を思い出しちゃって見てたの」


 女の子の寝室に入っても良いかと思ったが、いずれ入るのだからと部屋に入った。


 春香が見ていた窓に近付いた。外には外灯がいくつかあり道路がよく見えた。


(居ないよな……。俺が居るかもって思ったら寮にまで梅野さんの車を追いかけて行かないだろうし……)


 ホッとした雄太を見上げて春香はニッコリと笑った。


「じゃあ、私もお風呂入って来るね」


 春香はクローゼットの扉を開けると替えの下着やパジャマを手に風呂へと向かった。


 春香が『万が一マスコミが居たら』と思って照明を点けずにいた寝室に取り残された雄太はドキドキが止まらなくなった。


(春香の……寝室……)


 壁際にはドレッサーと本棚があった。本棚の上には、初デートの写真とハズレ馬券がフォトフレームに入れ飾ってあり、その横には雄太のサイン色紙が額に入れて飾ってあった。


(ハズレ馬券飾ってあるんだ)


 雄太の初騎乗は勝てずに苦い思い出ではあったが、春香は捨てられなかった馬券を大切な思い出として飾っていた。


(本当に五万円分買ってあるじゃないか。マジで俺に使う金額はハンパないんだよなぁ……)


 今では笑い話に出来るが、当時は心臓がバクバクしたのを思いだす。


 そして、本棚の本に目をやった。たくさんのマッサージや整体の本が並んでいた。


(ん?)


 マッサージの本の他に目に付いたのは低カロリー高タンパクの料理本やスポーツ選手にお薦めのメニュー等と書いてある料理本。


 それが一冊ではなく何冊もあった。


(これ……って……)


 本からは、いくつもの付箋が覗いていた。


(春香……俺の為に料理の本を買って……勉強しててくれたんだ……)


 春香は、決して自らの努力をひけらかす事をしない。自分が褒められる事を恥ずかしがる春香を思って、雄太は見なかった事にしようと思った。


(とりあえず……)


 雄太は持って来たカバンからコンドームを取り出すとヘッドボードの上に置いた。


(寝室で待ってたら、やっぱりガッついてるように思われるよな)


 雄太はそっと寝室を出た。ふと見るとリビングのテーブルの上にアイスコーヒーが置いてあった。


(あ……。さっき風呂上がりは冷たい物が良いかって訊いてくれてたのは……)


 前に風呂上がりはタンクトップにスェットでウロウロしてると言っていた事から準備してくれたのだろう。


 さり気ない優しさが嬉しかった。


(ありがとう、春香)


 ゆっくりとアイスコーヒーを飲んでいると少しは緊張が薄れた気がした。 


 だが、脱衣場からドライヤーの音が聞こえて来ると駄目だった。


(春香の髪は長いからって言っても、もう直ぐ……)


 自分は男なんだからと言い聞かせても緊張はしていた。上手くリードしなきゃなと思っていても、出来る事と出来ない事があるんだとも思った。


(正直……初騎乗とか、初G1の時より緊張してるぞ……?)


 『競馬以外はダメダメだな』と皆から散々言われた言葉が身にしみた雄太だった。





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― 新着の感想 ―
春香ちゃんの覚悟はきっと決まってますね。 そして雄太君もまた春香ちゃんの事を思いその緊張は大きくなる。 二人の大切な時間を応援しています!!
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