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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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187話


 ドアを閉めた春香はホッと息を吐いた。


(雄太くん……やっぱり有名になって行ってるんだよね……。お父さんが有名な人って言うのもあったんたけど……雄太くん自身が有名に……)


 何度も何度も悩んだ。雄太を好きになっても良いのかと。


 正直、付き合ってからも自分で良いのかと思う事もあった。


(それでも……私は雄太くんが好き……。雄太くんの傍に居たい……。雄太くんの夢を叶えたい……一緒に……)


 ゆっくりと足音を立てないように階段を上がり、自宅へと戻った。





 リビングのドアを開けると雄太がソファーに座って待っていてくれた。


「雄太くん、お待たせ」

「春香。梅野さん達、無事帰った?」

「うん。あのね……」


 春香は雄太の隣に座り、先程の出来事を話した。


「まだ……しつこく探してたのか……。ごめん、春香。迷惑かけて……」


 雄太は眉間に皺を寄せた。


 その雄太の頬に春香の唇が触れた。


「春香……?」

「私は雄太くんが好き。有名なお父さんが居るとか関係なくて夢を追いかけている『鷹羽雄太』が好きなの。日本一の騎手になろうと頑張ってる『鷹羽雄太』が好きなの。迷惑だなんて言わないで。ね?」


 そして、雄太の握り締められた手にそっと手を乗せた。


(春香だって、俺に迷惑かけてとか言ってたのにな)


 雄太は少し笑って小さな恋人を抱き締めた。


 春香も腕を雄太の背中に回し抱き締めた。思いっきり抱き合いキスをする。


(酸欠にならないように気を付けなきゃな……)


 肺活量を考えながら深く深く長いキスをする。


 唇を離して思いっきり抱き締めた。


「春香……。春香……会いたかった」

「私も会いたかった……。抱き締めて欲しかったの……」


 雄太の胸にスリスリと頭を擦り寄せて甘えて来る春香が愛おしい。


「あ、雄太くん。目を閉じて」

「ん? あ」


 会えなかった時にG3を獲ったキスがまだだった事を思い出し目を閉じた。


 そっと春香の唇が触れる。キスをするとしても、春香からしてくれるのが嬉しい。


「雄太くん、G3優勝おめでとう」

「ありがとう」


 マスコミに追いかけられていても、二人っきりになると甘い雰囲気になる。


「マスコミの事は分かってた事なんだけど……な。俺、春香を守りたいんだ。この先も、ずっと春香と歩いて行きたいんだ」

「ありがとう。私も雄太くんと一緒に歩いて行きたい」


 そう言って、黙って寄り添っていると胸の中のチクチクした棘が消えて行くのを感じていた。


 しばらくすると電話の着信音が響いた。


「あ、梅野さんかな? 寮に着いたら連絡してくださいって言っておいたから」


 ソファーから立ち上がり受話器を取ると梅野の声がした。


『もしもし、市村さん〜』

「梅野さん、どうでしたか?」

『やっぱりマスコミの奴等だなぁ〜。しっかり寮までつけてきてたよぉ〜。でも、心配は要らないよぉ〜。奴等、純也の事を雄太だと思ってるみたいで、少し離れた所に車停めてたからぁ〜』


 雄太と純也が入れ替わった事がバレていないと言われ、春香はホッとした。


「そうだったんですね。まだ寮の所に居るんですか?」

『大丈夫、大丈夫ぅ〜。迷惑な路上駐車してる車が居るって通報してお巡りさん呼んじゃったんだよねぇ〜。そしたら、どこかに行ったみたいだよぉ〜。一応気を付けておいてぇ〜』

「はい。ありがとうございます」


 そんなに車通りが多くなくても路上駐車していれば警察が来るだろう事は分かっていているはず。


 それでも、雄太の動向が気になるのだろう。


『それじゃあねぇ〜。良いお年を〜』

「はい。ありがとうございました」


 せっかくの二人っきりを邪魔したくないと思った梅野は簡単に報告して春香の返事を聞くと電話を切った。


(やっぱりマスコミか……。どうにかしたいけど、どうにも出来ない……。春香がマスコミを追いかけられるのだけは防がないと……)


 春香を守りたい雄太の決意は更に強く固くなった。




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― 新着の感想 ―
やっとの事で春香ちゃんとの気持ちの確認もし会えた雄太君。 確かに有名になってきましたからね。 そんな二人はお互いを思う。 そして梅野さんの話ではやはりかなりしつこそう。 でも春香ちゃんの気持ちを知れた…
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