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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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177話


「我慢するって……いつまで……? ずっと……? つらくない……? その内、私に会うのも嫌になったりしない……?」


 春香の声は震えていた。幾筋もの涙が背中をつたって流れる。


「春香は……俺が何をしようとしたか分かってんのか?」


 春香が頷いたのが背中に伝わる。


 初めての覚悟は女の子の方が大変だろうなとは思っている。


(分かってるのか……? 本当に……? 少しは分かってるって言ってたけど……それ以上の事なんだぞ……?)


 ピピピ……


 その時、マッサージ終了を知らせるアラームの音が響いた。


 マスコミの追跡があるかも知れないしと純也と一緒に店に来ていた。その純也は店でマッサージを受け、待合室で落ち合う約束になっている。


(あ……。もうそんな時間なんだ。ソルを待たせる訳にはいかないよな……)


 春香は立ち上がりマッサージ部屋に向かった。アラームを止めて、雄太の衣類を手にリビングに戻る。


「あ……ありがとう」


 雄太は受け取ると服を身に着け始めた。その間に、春香は洗面所に行き顔を洗っていた。


 リビングに戻った春香は真っ赤な目して雄太を見詰めた。


「私……私ね……。あのね……」


 何かを伝えたいようだが、上手く言えないようだった。


「無理しなくて良いんだ……。春香の心の準備を待つから。俺の為とかじゃなく……な? この事だけは俺を優先させなくて良い。そんな事されたら……俺が俺を許せなくなるから。分かった?」

「うん……」


 春香がおずおずと差し出した。その手を握る。


 春香がギュッと握り返して来た。


「来週も会える……?」

「春香は……嫌じゃないのか?」

「私は……会いたい……」


 泣きそうな……捨てられた仔犬のような顔をする春香を抱き締めた。


「今日の俺のした事を許してくれるのか……?」

「雄太くんは……悪い事をしたって思ってる……?」

「うん……。春香の気持ちを無視したからな……」


 春香が小さく頷いて、雄太の顔を見上げた。


「そう……だね……。うん……。悪いなって思ったんなら……その……ちゃんと答えてね……? えっと……雄太くんは……私の事を好きだから……なんだよね? ……その……」

「……俺は春香を傷付けたくないって思ってた……。でも……春香が好きだから……春香とシタい……」


 春香は真っ赤な顔をして頷いた。


(春香は覚悟を決めてるのか……? 本当に大丈夫なのか……?)

「分かった……。今日は時間だし帰るよ。ソルが待ってるし。今度……今度会った時……春香の気持ちがしっかり固まってたら……な?」


 春香は、もう一度頷いた。


「今日は、ここで……な? 泣いた顔をして店に行ったら心配かけるだろうし。ちゃんと冷やしておきなよ? 明日は仕事なんだし」

「うん。また、ね?」

「ああ」


 雄太は軽くキスをして春香の部屋を出た。



✤✤✤



 12月17日


 雄太は調教終わりに車を出してトレセンのある栗東から、かなり離れた市の薬局に向かった。


(ちゃんと避妊しなきゃ……な。子供が出来たら……って、虐待された子供が自分の子供にも虐待するって話を聞いたけど、春香はどうなんだろう……。子供が欲しいとか思うのかな……? それとも……)


 全員がそうではないだろうけれど、心配症の春香なら子供は欲しくないと考えるのだろうかと思ってしまった。


「雄太ぁ〜」

「の゙お゙っ⁉」


 立ち尽くしていた雄太の背後から声をかけたのは梅野だった。


「お前、こんな所で何やってんだよぉ〜? ……ん?」


 梅野は、雄太が難しい顔をして立っていた所の商品棚を見た。


「な……な……何でもないですっ‼」


 雄太は一目散に走り去った。


(ふぅ〜ん。雄太がねぇ〜。ま、ちゃんと考えてんだし良いっかぁ〜)


 梅野は商品棚に手を伸ばし、一箱手に取るとレジに向かった。レジにいた人の良さそうなおじいちゃん店員はニッコリと笑って茶色い紙袋に商品を入れてくれた。




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― 新着の感想 ―
春香ちゃんとゆっくりと関係をすすめようとする雄太君! 大事ですね! 愛おしいからこそ求めたくなりますしとても大事な事ですしね! そして梅野さんは何かを考えているのかな。 雄太君そして春香ちゃんは真の繋…
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