17話
直樹はしゃがんで、雄太の足首に湿布を貼り包帯で固定しながら話す。
「春が施術したから大丈夫だろうけど、今日は安静にな? 風呂はやめておくように。どうしてもって言うならシャワーだけな? 先に行った病院で湿布出してもらっただろ? 朝起きたら、新しいのに貼り替えるように」
直樹から注意事項を聞いていると、里美がバインダーと一枚の紙を持って VIPルームに入って来た。そしてバインダーにはさんである用紙を雄太に見せながら説明する。
「これに、名前、フリガナ、生年月日、郵便番号、住所、電話番号を記入してね。職業欄は……今は『学生』ね」
(あ……これが受付表か……)
雄太は頷いてバインダーとボールペンを受け取り、一つ一つ記入して行く。
「鈴掛さん。会計はどうします?」
里美が雄太にではなく鈴掛に訊いた事で、雄太はハッとしてボールペンを持った手が止まった。
(この人……市村さんって、VIP専用の人で『巫女』って言われてる人なんだった……。しかも営業時間外だ……。いったいいくら必要なんだ……?)
競馬学校は卒業したが、今の雄太は職業欄に書くように言われた学生。
鈴掛に訊くと言う事は『学生の雄太に払える金額ではない』と言う事。
「あ~、悪い。俺、今日そんなに持ち合わせの金がないんだ。明日も春香ちゃんみてくれるって言ってるし、明日まとめて請求の後日払いでも良いかな?」
鈴掛の言葉に雄太の血の気がサーッと引いた。
鈴掛は、もういくつも重賞を勝っている騎手歴十二年。
収入もそれなりにあり、財布には いつも万札がしっかり入っている。その鈴掛が『持ち合わせの金で払えない』と言う。
(ヤバい……。絶対ヤバい金額だ……。マジでヤバい金額だ……)
「そうね……。仕方ないわね。そうしましょうか。無い袖は振れないものね」
里美がそう言うと
「悪いね。里美先生」
と言って、鈴掛は拝むようなポーズをとった 。
「なぁ……。マジでヤバい金額なんじゃね?」
いつの間にか雄太の隣に立っていた純也が、雄太の耳元で囁いた。
雄太は青ざめた顔で頷くしかなかった。




