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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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175話


 背中から腰にかけて、春香の優しい手がゆっくりと解していってくれる。


「背中が終わったら、足もマッサージするね」

「頼むな」

「そうそう。雄太くんと乗馬体験行った次の日ね、太もも筋肉痛になっちゃったんだよね〜」


 初めての乗馬で見様見真似で騎乗姿勢をとった春香を思い出す。


「そりゃ、あの細い鐙に足をかけて体を支えるからなぁ〜。俺の足の裏、タコが出来てるだろ?」

「うん。ここが鐙の位置なんだね」


 初めて雄太の足の裏を見た時より、若干だがタコが大きくなっている気がした。


(乗馬教室や競馬学校の頃より、ずっとたくさん馬に乗ってるからなんだろうな。騎手の勲章みたいな物なのかなぁ〜?)

「落ち着いたら、また乗馬行ってみる?」

「ん〜。前は特別にって事だったでしょ? 行くなら教室に入った方が良くない?」

「小野寺先生が、また春香に会いたいんだってさ」


 優しげな小野寺の顔を思い出す。会いたいなんて言ってもらえるとは思ってなかった春香は嬉しく思った。


「小野寺先生とはよく会うの?」

「この前、たまたま会ったんだよ」

「そうなんだね。はい、背中終わり。次は足だね。仰向けになって」


 雄太は体を起こして仰向けになった。春香の手が太ももをマッサージして行く。


(気持ち良いなぁ……。春香の手って、何でこんなに……あ……ヤバ……っ‼)

「え……? あ……」


 春香が顔を真っ赤にして太ももから手を離し、背中を向けた。


「ゴメン……。あの……。その……」

「う……うん」


 謝ったものの、反応してしまった下半身は、そう簡単にはおさまらない。


(何考えたんだよ、俺……。や……考えなくても反応するんだよな……。俺、男だし……さ……。って、言い訳だよな。マッサージしてもらってんのに……)

「えっとぉ……。私、リビングに居るね? その……おさまったら声をかけて?」

「うん……。ゴメン……」


 春香は苦笑いを浮かべながら部屋を出て行った。


(春香は……分かってんのかな? 分かってても、いきなりだと引いちゃうよな……。しかも、マッサージしてる最中にさ)


 十八の男としては普通だったりするが、恋愛経験ゼロの春香がどう捉えただろうかと思うと不安になった。


(マッサージの度に反応してたら、その内マッサージしてもらえなくなるんじゃないか?)


 つらつらと考えていると落ち着いてきた。


(てかさ、マッサージしてもらう時に勃たなくなりたいなんて誰に相談するんだよぉ……。馬鹿にされるか、笑われるかだぞ? ……とりあえずもう一回謝ろう……)


 マッサージ部屋を出てリビングのドアを開けると春香はコーヒーを淹れてくれていた。


 雄太に気付いた春香はテーブルにコーヒーを置いてくれた。


「はい、どうぞ」

「ありがとう……。あ、服……」


 マッサージをしてもらっていたからもちろんパンイチ。


(せめて、シャツぐらい着てくれば良かった……)

「コーヒー飲み終わったら、またマッサージするでしょ?」


 また下半身が反応してしまうかも知れないと思うと、雄太は即答出来なかった。


 黙って立ち尽くす雄太を見詰めている春香に何か言おうとは思うのだが、何を言っても事実は変えられないと思い、謝罪を口にした。


「えっと……その……さっきはゴメンな?」

「うん……。その……私……少しくらいは……分かってるから……」

「うん……」


 気不味い空気が流れるが、せっかく淹れてもらったコーヒーが冷めるかと思いソファーに座った。


(少しくらいは分かってる……か……。そうだよな……。『少し』なんだよな……。一番異性に興味がわく頃に春香は生きるって事しか考えられてなかったんだもんな……。初恋すら……俺なんだし……)


 コーヒーを一口のんでフゥと息を吐く。


 いつものように隣に座った春香との距離が微妙に離れている。


(気を使わせてんだよな……)


 自分が原因ではあるのだが、少し淋しく思った雄太だった。





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― 新着の感想 ―
雄太君も春香ちゃんに対してこんな感情の時は心の支えに求めていきたいところも湧いてきたんでしょうね。 そんな彼はどうしても気をつかう春香ちゃんの行動に寂しさを覚える。 そしてどうなっていくのか!? 続き…
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