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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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174話


 週末金曜日


 調整ルームに入る前の午前中。雄太と鈴掛は東雲マッサージ店を訪れていた。


 受付で出迎えた春香はしっかりとプロの顔をしていた。


(もし、雄太をつけて来た奴が居ても、あの写真の少女市村春香と東雲マッサージの市村春香が同一人物と気付く奴が居るかな? 完璧に『東雲の神子』の顔してるんだもんな。春香ちゃんもやるようになったよ。雄太の為……なんだよな。本当に雄太が好きなんだな)


 鈴掛は恋をして成長した二人が、VIPルームへと並んで歩いている背中を見送った。




 VIPルームに入りドアを閉めると春香は振り返り、雄太の胸に顔を埋めた。 


「雄太くん……。会いたかった……。会いたかったの……」

(春香……)


 ギュッと背中に腕を回しながら縋り付いて来る姿を見ると切なくなる。


(大丈夫って言ってたけど、本当は不安だっただろうし、ショックもあったんだろうな……)


 雄太は取材を受けたりする事もあった。だが、一般人の春香が写真を撮られ雑誌に載るなどなかっただろう。驚きと不安でどれだけ心細かったかと思うと抱き締めずにはいられなかった。


「付き合い始めたばかりで、こんな事になってゴメンな?」

「ううん。雄太くんが悪い訳じゃない。悪いのは私かも知れない……」


 雄太の腕の中で春香は小さく呟いた。


「春香は悪くない」

「でも……。秋のG1シーズンが始まってるのにデートしたから……」

「デートしようって言ったのは俺だぞ? 春香はお祝いしたいって言っただけだろ?」

「私、歳上なんだから止めなきゃ駄目だったんじゃない?」


 真面目な声で『歳上』と言った春香に笑いが込み上げる。笑っている場合ではないとは思い必死で笑いを堪える。


(何だろなぁ〜。確かに歳上なんだけど、いつの間にか歳上って感覚なくなってんだよな。最初に『可愛い』って思ったのが原因か?)


 気が付けば春香がジッと見上げていた。


(春香が童顔で仕草も可愛いからだな)


 甘えてくれるようになったら更に歳上の感覚がなくなった小さな恋人にキスをする。


「俺は嬉しかったんだ。春香がお祝いしたいって言ってくれて。おめでとうって言ってくれて、お揃いのキーホルダー買って、一緒にソフトクリーム食べたりしてさ」

「うん。雄太くん、大好き」


 一週間の疲れを癒やしてくれる春香が愛おしい。この時間だけは誰にも邪魔されたくはない。


(もっともっと頑張ろう。俺の夢を叶える為に。春香に喜んでもらう為に)




✤✤✤




 12月14日(月曜日)


 週末一勝をあげたが外デートが出来ない事もあり、雄太は東雲マッサージ店の二階の春香の自宅に居た。


 慎一郎達に言われてから店でマッサージを受けていたのだが、この日はVIPルームの施術用の椅子やベッドのメンテナンスに業者が来ており自宅でのマッサージを受けていた。


(春香の家に来るの久し振りだよな。ずっと店でマッサージ受けてたし)


 マスコミがいつどこで撮影しようとしているか分からないので、店でのマッサージも一時間半が限界だった。


(もっと……もっと春香と一緒に居たい……。週に一回しか会えないのに……)


 何度も何度も考えた。自分の夢を叶えるとしたら注目されるのは仕方がない事だと。


 その代償が、好きな相手に負担を掛けてしまうのだと思うとやり切れなかった。


(俺の夢と恋愛の両立は難しいのか? けど……俺はどちらも諦めたくない)

「雄太くん?」


 ふいに春香が顔を覗き込んだ。


「え? ゴメン。何?」

「返事ないから寝ちゃってるのかと思っちゃった」

「マッサージが気持ち良くてボーっとしてた」


 いつマスコミが東雲まで来るかも知れないと自分の所為で迷惑をかける事を思い誤魔化してしまう。


(俺が追いかけ回されるのは我慢出来ても、春香に同じような嫌な思いはさせたくない。ある事ない事を書かれて傷付けたくない。……けど何とかしたいよな)


 どう考えても堂々巡りは終わりそうになかった。




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― 新着の感想 ―
春香ちゃんとあう時間も制限をされる形になってしまう雄太君。 春香ちゃんもまた雄太君の為に色々頑張ってくれている。 でもこういうのって余計二人に火をつけるのかも知れませんよね(´ω`*) でもそうなって…
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