163話
「降参っす。市村さんには敵わないっす。てか、雄太が彼女に男友達が出来ても良いなんて言うとは思わなかったぞ」
「他の野郎なら絶対に嫌だけどソルだしな。誰よりも信頼してるし」
「だよね〜、雄太くん」
半笑いで言った純也に雄太がニッと笑って返すと春香も賛同する。付き合いだしてまだそんなに経ってないと言うのに、この信頼感は何なんだろうと純也は思った。
(付き合う前から……って考えた方が良いのかもなぁ……。付き合えなくても信頼し合ってたって感じ? 俺、雄太に何かあったら無条件で助けようって思ってたけど、市村さんも含めておかなきゃだな。いつか、恩返ししよう)
「はい、終了です。タオル絞って来ますから、そのままで待っていてくださいね」
「はいっす」
春香は一度部屋を出て、しばらくすると大量のタオルをバケツいっぱいにして戻って来た。そして、純也の背中から足まで綺麗に拭った。
「ゆっくり起きてくださいね。もう大丈夫だと思いますけど、無理に動かそうとか負担かけないでくださいね」
春香に言われて、純也はゆっくりと体を起こした。今朝、違和感があった部分が分からないぐらいになっていた上に、足も軽くなっていた。
「市村さん、ありがとうござい……」
「塩崎さん。友達に『ございます』は変ですよ?」
「あ、そっすね。ありがとう、市村さん」
純也の返答に頷いた春香は雄太の方へ振り返った。
「じゃあ、次は雄太くんね」
「うん」
純也がメタルラック横に置かれた籠の前に行き脱いだ服を着ている横で雄太がトレーナーを脱いだ。そして、下に着ていたタンクトップを脱いだ時、春香がしゃがみ込んだ。
「え? あ……。ワッ‼」
「春香……?」
「え? 市村さん?」
「は……は……恥ずかしい……」
耳まで真っ赤になって顔を覆っている春香を二人でマジマジと見た。
「市村さん、俺のパンイチは大丈夫だったのに雄太は恥ずかしいんすか?」
「うぅ……。は……恥ずかしいんですっ‼ 塩崎さんも鈴掛さんも梅野さんも大丈夫なのにぃ……」
純也に問われ顔を覆ったまま春香が答える。
「あ。もしかして、雄太の裸を初めて見た……とか?」
「あ……当たり前じゃないですかぁ……」
純也はチラッと隣に立っている雄太を見た。雄太は上半身裸の状態で固まっていた。
(スッゲェ真っ赤になってる……。何で俺だけ……?)
「何で雄太だけ駄目なんすか?」
「じ……自分でも分かりませんっ‼」
叫んだ春香を茫然と見ている雄太の耳元で
「まだ、シテないんだ?」
と、純也が言った。
雄太が純也の頭にゴスッとげんこつを落とした。
(あぁ〜。この二人は『まだ』なんだ。てか、イテェ〜)
春香はしゃがみ込んだまま、何度も何度も深呼吸をしていた。
「大丈夫か?」
「う……うん。ちょっと……待って……」
フラフラと立ち上がった春香は、また何度も深呼吸をして雄太を見た。そして、不自然にパッと顔を逸らした。
「も……もう、大丈夫っ‼」
(絶対、大丈夫じゃないだろ……)
(全然、大丈夫には見えねぇ〜)
来たるべき日に備え慣れてもらうしかないと思い、雄太はジーンズと靴下も脱ぎ施術ベッドに横になった。
「う……」
パンイチの雄太を見て、また顔を赤くして春香が顔を逸らした。
(こんなのでいざって時、大丈夫なのかぁ〜? てか、出来んの? パンイチでこんなだったら、パンツ脱いだ雄太見たら倒れんじゃね?)
純也は吹き出しそうになるのを必死で堪えていた。
どうにか施術モードに入ろうとしていた春香だったが、ドキドキを押える事が出来ずにいた。そして、目を閉じてなんとかマッサージを始めた。
その時、雄太は
(春香の手、震えてんだけど……)
と、気になっていた。
(えっと……これは仕事……仕事……。雄太くん……背中の筋肉も凄いな……。格好良い……。裸の雄太くん……ウキャア〜っ‼)
薄目で雄太の裸を見てはパニックになる春香だった。




