161話
春香は通用口と反対側にある地下駐車場に入って行った。
「駐車場の出入り口ってこっちだったんだな」
「うん。こっちは住居者用ね。うちと直樹先生の家の分で三台分あるんだよ。店の前と通用口ので全部で八台分になるね」
春香はそう言って一番奥の壁のボードに『市村』と書かれている駐車スペースにバックで車を停めた。隣のスペースは空いていて、その隣にはシルバーグレーのベンツがあった。共に壁のボードには『東雲』と書かれていた。
(これって直樹先生のかな? 似合いそうな色だなぁ〜)
「雄太くん、塩崎さんが降りるの手を貸してあげて。降りる時、負担が掛かるから」
「あ、うん。分かった」
雄太は車を降りて助手席側に周りドアを開けた。そして、肩を出して純也に掴ませた。
「俺が捻挫した時の逆だな」
「だな」
後部座席から買い物袋を降ろしながら、春香はその様子を
(男の子同士の友情って良いなぁ〜)
と、思って見ていた。
「ゆっくり歩いてくださいね」
春香はそう言ってエレベーターの方へ歩き出した。雄太の手を借りて車を降りた純也が不思議そうな顔をしながら訊ねる。
「あの……市村さん、店でマッサージするんじゃないんっすか?」
「あ、塩崎さんには言ってなかったでしたっけ? 施術は私の自宅でします。施術用のベッドとか、前に使っていたのを持ち込んでますから安心してくださいね」
「へ? 家に……っすか?」
純也が訊くと春香は少し恥ずかしそうに笑った。
「雄太くんのマッサージは店でしなくても良いかと思って。私の彼氏だし」
(おぉ〜。メッチャ照れてるぞ。市村さんって分かりやすぅ〜)
エレベーターのボタンを押している春香の手から雄太が荷物を受け取る。
「ありがとう」
礼を言った春香に雄太が頷いた。その様子が微笑ましくて
(雄太って、こう言うのさり気なく出来る奴だったんだぁ〜)
と、純也は思っていた。
エレベーターホールから左へ向かうと、途中に天井近くまである門扉のような物があった。春香は鍵を開けると扉を手で押さえた。
「ここから先がうちって言うか東雲と私の所有なんです。手前が直樹先生達の自宅で、私の自宅は奥です」
(ここから先全部……? だから門扉つけてあるのかな? あ……もしかして春香の親が来たりした時の為に付けたのか……)
直樹が金の無心をしに来ていたと言っていたのを思い出した。
(こんなの付けなきゃなんなかったんだな……。まぁ、防犯にもなるしな)
雄太は彼氏として一人暮らしの彼女の防犯面は気になる所だった。大きな門扉は春香を守ってくれそうで安心した。見上げると防犯カメラも付いていた。
門扉の奥、真正面には金属製の扉があり、その手前で春香は立ち止まった。キーケースから鍵を出して開けて大きくドアを開けた。
「とうぞ。あ、うちスリッパないんでそのまま入ってください」
開けられたドアから見えたのは大人が余裕で両手を広げられる位の広い廊下。壁はナチュラルな木製。正面の扉には硝子がはめ込んであり、玄関先まで明るかった。
(玄関広っ‼ 廊下広っ‼)
純也は自分の家と比べる。そして、チラッと春香を見た。
(雄太ん家も広いけど、あれはおっちゃんの財力だもんな。市村さんは自分の稼ぎでここに住んでんだもんな。やっぱスゲー人だよな)
「右の部屋が施術部屋になってます」
春香は靴を脱いで、施術部屋に入り照明を点けるとエアコンの暖房スイッチを押した。
「私、買った物を冷蔵庫にしまって来ますから、塩崎さんは服を脱いで待っててくださいね」
「服……脱ぐんすか?」
「脱がないとジェル付きますよ?」
親友の彼女の前で服を脱ぐのはどうかと思ったが、施術を受けるなら脱がなければならない。
「全部……っすか?」
「え?」
「パンツも?」
春香の目が点になる。
「パンツは履いとけ……」
雄太は呆れたように言った。




