160話
「俺さ、雄太には同級生か歳下が合うだろうなって思ってたんだよなぁ〜」
「正直、俺も思ってた。まさか三歳も歳上の春香を好きになるとか自分でもビックリしたんだよな。付き合うとかになったら情けない部分を見られるって不安に思ったりもしたんだけどさ」
男として、やはり格好はつけたい。けれど、実際には上手く行かない。それなのに、春香は雄太の情けない部分も受け入れてくれていた。
「初対面はプロモードだっただろ? 格好良いって感じのさ。その上に『東雲の神子』モードになったもんな。優しい処もあったけど、惚れる部分ってどこだったんだよ?って感じたんだよなぁ〜」
「うん。何んて言えば良いんだろな……。仕事に真摯に向き合ってる処とか、人を気遣う処とかもだけど、やっぱ優しくて可愛い処が一番だったかな。過去の話を聞かされてからは守ってあげたいって気持ちにもなったし」
どんなにつらい事があっても一生懸命に前を向いて進もうとしている姿は胸に来る物があった。
「歳上でも守ってやりたい……。そんな気持ちになる事があるんだな」
「春香は、子供らしい子供じゃなかったから、今子供から成長しようとしてるのかも知れないって直樹先生にも言われたんだ。だから俺とバランスが取れてるのかもな」
(雄太、自分が成長してんのに気付いてないのかな? 俺から見たらお似合いってか、似た者同士って感じだよな)
「神子モードの市村さんにはタジタジになるけど、ホワホワモードの市村さん見てると、雄太が可愛いって思うのは分かるぜ。天然って感じだもんな」
さっきまでの会話を思い出して純也はゲラゲラと笑う。雄太も頷き笑った。
そこに、大きな袋を持った春香が戻って来た。後部座席のドアを開けて荷物を置いた。
「ごめんなさい。お待たせしちゃって」
「え? 結構な量買ったんだな。言ってくれたら荷物持ちしたのに」
雄太が言うとニッコリと笑いながらドアを閉めた。そして、運転席のドアを開けて座ると
「これくらいなら大丈夫。マッサージって力仕事なんだからね?」
と、言ってシートベルトを閉めた。
「市村さんって筋肉なさそうだけど、騎乗姿勢取れるぐらいの筋肉はあるんすよね?」
(そう言えば……)
初めてのデートで乗馬をした時、ほんの少しだが騎乗姿勢を取れていた。施術着姿の時に見えた二の腕もしっかり筋肉がついていた。
「野球選手の方やバスケ選手の方って筋肉凄いんだよ。私、施術しながらマッサージは格闘技なんだって思ったもん」
((格闘技って))
雄太と純也は吹き出しそうになりながら、小さな春香が一生懸命大きな大きなバスケ選手の筋肉を解そうとしている場面を想像した。
(バスケ選手とかだと、春香より50cmぐらい背が高いんだろうな……。大人と子供みたいな感じ?)
春香はゆっくりと車を出して、東雲に向かう。
「柔道やってる方とか空手やってる方の筋肉も凄かったの。一時間コースでマッサージした後、私が筋肉痛になって里美先生にマッサージしてもらったんだよ」
その様子を想像した雄太と純也は我慢の限界を超えてゲラゲラと笑った。
「もぉ〜。笑い事じゃないんだからねぇ〜」
「ゴメン、ゴメン。けど、想像したら、ブッ」
「あ〜。また笑ったぁ〜。良いけどぉ〜。私、握力は測った事ないけど、指の力は普通よりあると思う。鍛えられてるから」
春香はチラリとバックミラーで雄太を見た。
「この鍛えた指で足ツボしちゃうもんね」
「え゙」
雄太の焦った声に純也は吹き出す。
吹き出した純也にニッコリと笑いながら
「塩崎さんもですよ?」
と、春香は言った。
「お……お……俺もっすかっ⁉」
春香はふふふっと笑った。今度は雄太が吹き出す。
「足の裏もふくらはぎの裏もグリグリしちゃうんだから」
「やっ‼ ちょっ‼ い……市村さんっ‼ 俺、足ツボ初心者だからっ‼」
「ソル、初心者って何だよ。せめて初めてって言えよ」
「一緒じゃない?」
車内は笑い声が溢れていた。




