第7章 スキャンダルと春香の決意 156話
日曜日の夜
日曜日G3に出走した雄太だったが結果は掲示板入りは果たしたものの五着だった。
『明日はマッサージに来てね』
「うん。外デートが出来ないのは残念だけど、春香にマッサージしてもらえるのは嬉しいし、絶対行くよ」
『うん』
重賞だけでなく、メインレースで一着になれなかったら外デートではなくマッサージをするのが二人で交わした約束。
✤✤✤
『私に出来る事って少ないと思うし、私の出来る事で雄太くんの役に立ちたいの。だから、マッサージさせて欲しいな。その後、一緒にご飯食べたりしたいんだけど……。駄目かな?』
「え? 一緒にご飯? それってデートじゃないのか?」
一緒に出かけて食事をしたらデートではないのかと疑問がわいた。
『そうじゃなくて、頑張って作るから家でご飯食べて欲しいなって事なの』
「作るって……。春香の家に行っても良いのか?」
『うん。他に私が出来そうな事が思いつかなくて』
春香は自分の存在が雄太の癒やしになっているとは思っていないようだった。
(春香……。マジで俺のサポートしたいって思ってくれてるんだ……。てか、春香の家に行けるなんて嬉しいんたけど)
「マッサージしてもらうんなら、一応予約した方が良い?」
『要らないよぉ〜。私が自分の家で恋人のマッサージするだけなんだから』
恐らく恥ずかしさで顔を赤らめているのだろうと想像が出来るくらいに照れ臭そうに春香が言う。
(春香、甘えるの苦手とかお願い事するのには勇気が要るとか言ってたけど、さり気なく俺が嬉しくなるお願い事してくれるんだな……。春香にマッサージしてもらって、春香の作ったご飯が食べられるなんて最高だぞ)
もちろん一着になれなかった悔しさはあった。反省すべき点を考え、次はこうしようと考えた。
その後に、こんな風に春香からさり気ない励ましがあれば、どんどん頑張れる気がして来るのだ。
(俺、春香の事を絶対誰にも渡したくないって思ったの間違ってなかったよな。もしかして一生分の運使い果たしたかも)
『雄太くん、好き嫌いある?』
「え……。人参……」
十八歳にもなって人参が嫌いと言うのは恥ずかしいが、どうしても好きになれなかった。子供っぽいと思われるかもとは思うが、訊かれたのだからと答えた。
『知ってる。この前の食事会の時に煮物に入ってた人参、私の器に入れたでしょ?』
「あ……バレてた?」
『バレバレだよぉ〜。私、人参食べたのに、気付いたら器に人参があったんだもん』
春香はそう言って楽しそうに笑っている。人参が嫌いな事は大して気にしてなさそうだと雄太は思った。
「春香は人参好きだって言ってたし良いよな?」
『良いけどぉ〜』
二人で話してるとポカポカと心が温かくなる気がする。キスをした事から、時折甘い雰囲気も漂う。
「明日は、何時ぐらいに行ったら良い?」
『迎えに行くよ。ある程度の仕込みは、もう終わったしね』
「じゃあ迎えに来てもらおうかな。場所は……寮で良いか?」
まだ春香の事を紹介出来ていないから家に迎えに来て……とは言えない。
(早く父さん達に紹介した方が良いって思ってんだけど……なぁ……)
『分かった。寮ね』
「ああ。9時くらいで良いかな」
『うん。じゃあ、9時に寮でね』
✤✤✤
翌月曜日
9時前に寮に着いた雄太は、食堂で変な体勢で座っている純也を見付けた。
「ソル。どうしたんだよ?」
「あ、雄太……。何か背中が変なんだよなぁ……」
「背中?」
純也の座っている前の椅子に腰かけた。
「どんな感じなんだ?」
「ん……。肩甲骨から腰にかけて突っ張ってるって言うか……筋肉が固まってるって言うか……。寝違えたのかなぁ……」
何度か座り方を変えてみたりしているが、どうやっても座り難そうだった。
(これは……春香に相談した方が良くないか……?)
治すなら一日も早い方が良いと雄太は思った。




