154話
翌月曜日
雄太と純也の初勝利を祝った店で食事会は行われた。
「塩崎さんとゆっくり話すのは初めてですね」
「そうっすね」
雄太の隣に座った春香はニッコリと笑って純也に話しかけた。返事をした純也は、自分の隣に座っている梅野に耳打ちする。
「あの……市村さん、先週会った時より綺麗になってないっすか? 先週のワンピースの方が女の子らしい格好だったのに……」
今日の春香はオフホワイトのブラウスに淡い水色のセーターを着てデニム地のロングのフレアスカートと言うシンプルなスタイル。それなのに綺麗になったような気がしたのだ。
「恋をして綺麗になって、その恋が実って更に綺麗になったんだろぉ〜」
「女の子って、恋したらマジ綺麗になるんすね」
梅野と純也は前の席に並んで座り仲睦まじく話している二人を見る。
(良いねぇ〜。初々しいカップルだねぇ〜)
(雄太って、俺よりガキっぽかったのになぁ……)
春香は純也や梅野、鈴掛ともあれこれ話しかけていた。特に純也にはあれこれ話を振っていた。中学の時に打ち込んでいた陸上の事や欲しい車の事。雄太と過ごした子供の頃の話。
(春香ちゃん、ちゃんと雄太以外とも話すようにしてるんだな。空気を読めなかったり、幼い感覚の娘なら、彼氏である雄太とだけ話したりするんだがな)
鈴掛はチビチビと日本酒を呑みながら春香の気遣いを感心して見ていた。
(ゆっくりと大人になれず、一足飛びで大人の世界に飛び込まざるを得なかったんだよな……。それなのにきちんと大人の対応が身に付いてるのは、やっぱり東雲夫妻のおかげだよな。東雲夫妻も若いのにな)
純也や梅野と楽しそう笑って話しているのを見るとやはり親心が芽生えて来てる所為か、大人になった春香を見てしみじみとしてしまう。
「鈴掛さん、どうぞ」
「お? ありがとうな」
話に夢中で見ていないようで、猪口が空になったら酌をしてくれる。娘に酌をしてもらっているようで嬉しくなる。その様子を雄太はニコニコと笑って見ていた。
(ガキだ、ガキだと思ってた雄太がなぁ……)
正直、騎手と言う過酷な世界で生きるには優し過ぎるのではないかと思っていた。見た目で判断するものではないが、小学生の頃の雄太はホワホワした印象しかなかった。
(春香ちゃんの過去も全部引き受けるって決意をしただけでグッと大人になりやがって)
春香の方が歳上だと言うのに、並んで座って話しているのを見ると雄太の方が歳上に見える時があった。
(上手くやっていって欲しいよな)
「あ、市村さん。あのクッキーマジで美味かったっす」
「そう言ってもらえたら嬉しいです」
純也がふと思い出して言った。褒めてもらえた事で春香が嬉しそうに笑う。
「あ〜。あれ俺も食った。甘さ控え目で美味かったな」
「鈴掛さんも食べたんですか?」
鈴掛は甘い物を食べるイメージがなかった雄太は驚いて訊いた。
「そうなんだよぉ〜。あれ結構な量があったのに、先輩達に『一枚くれ』って感じで食って行かれてさ。もう殆ど残ってないんだぜ?」
純也が頬を膨らませながらブツブツと言う。
「そうだったんですね。塩崎さんの誕生日はいつですか?」
「来月っす。来月の22日っすよ」
「あぁ……。雄太くんより前なんですね」
春香は少し悩んで雄太を見上げた。
「俺より誕生日が後の奴の方が少ないぞ?」
「うん……」
雄太は笑ってそう言ったが、春香は少し残念そうに頷いた。
「雄太の誕生日の方が後だと何か問題でもあるのぉ〜?」
梅野がワインを呑みながら訊ねた。
「私、直樹先生以外の男性に誕生日プレゼントを贈った事がなくて。初めての誕生日プレゼントは雄太くんって決めてるんです」
頬を赤らめながら言う春香に雄太は嬉しさが込み上げた。
(そ……そんな事言われたら抱き締めてキスしたくなるだろぉ〜っ‼)
雄太は思いっきり箸を握り締めた。




