153話
日曜日の全レース終了後
(うぅ……。一着獲れなかった……)
「残念だったなぁ〜、雄太。でも、約束は約束だからなぁ〜? 明日は市村さんを囲む食事会だぞぉ〜」
「俺、肉食いたい。前に、雄太が飯おごってくれるって言ってたのにまだだし」
「春香ちゃんと食事会なんてな。店はどうする? 何なら俺が予約しておくぞ?」
(何で……こんな事に……なるんだよぉ……)
✤✤✤
金曜日の夜
京都競馬場調整ルームでの出来事。
なぜか前週と同様、レースの勝敗を予想していた四人がいた。
「今週も俺は一着になって月曜日はデートするんですっ‼ てか、何で毎週春香とのデートを邪魔しようとするんですかぁ〜っ⁉」
「お? 生意気な奴だなぁ〜。三週連続で一着獲れるつもりなのかぁ〜?」
梅野に羽交い締めされながら雄太はブーブーと不平を漏らす。
「良いじゃないか。春香ちゃんと食事会したって」
「俺、市村さんと話したいって言っただろ〜?」
鈴掛と純也は羽交い締めにされてる雄太の脇腹を時折つつきながら話す。
「ちょっ‼ くすぐったいですってっ‼ ブハッ‼ ソルつつくなってっ‼ てか、梅野さんっ‼ 離してくださいって‼ ブハハハッ‼」
「諦めて市村さんとの食事会を了承しろってぇ〜。嫌なら一着になったら良いんだよぉ〜」
完全にオモチャにされている雄太はゼェゼェと息を切らしながら
「わ……分かりましたっ‼ 俺が一着になれなかったら食事会で良いですっ‼ だから、脇腹つつくのやめてくださいっ‼」
と言ったのだった。
✤✤✤
「やっぱ個室がある所が良いよなぁ〜。落ち着いて飯を食えないってのは嫌だしな」
梅野や純也ならまだしも、鈴掛までがウキウキとしているのが解せなかった。
「何で鈴掛さんまで嬉しそうなんですかぁ……」
「そりゃ、あの生い立ちを知って気にしてた上に、実親の逮捕ってトドメみたいな出来事があったろ? それでも明るく生きようとしてる春香ちゃんとの食事ってのが嬉しいんじゃないか。親心ってのが芽生えたんだよ、俺は」
鈴掛がニヤリと笑う。
(いやいや……。もう既に充分親心芽生えてたし……)
何度も何度も父親モードの鈴掛を目の当たりにしていたし、時にはガッツリ説教を喰らっていた雄太は溜め息を吐いた。
その日の20時
「……って事で、明日は鈴掛さん達と食事会って事になったんだんけどぉ……」
渋々プラス嫌々ながらに言う雄太の耳にクスクスと笑う声が届く。
「春香ぁ……?」
『ご……ごめんなさい。あまりにも雄太くんが嫌そうに言うのがおかしくて……。笑うの我慢出来な……くて……』
そう言って謝ってはいるがクスクスと笑うのは止まらないようだ。
「週に一回しか会えないのにさぁ……」
付き合う時に分かっていた事ではあるが、せっかくの休みに二人っきりでいられないとなると愚痴りたくもなるのだった。
『うん。でも、これからはずっと一緒にいられるんだから、一回ぐらいみんなと食事って言うのも良いんじゃない? しかも、食事会しましょうって言い出したのは私なんだし。確かに、梅野さんも言ってたけど』
(これからはずっと一緒……)
照れ臭そうに言われた言葉が胸を熱くする。
「そうだな。うん。一回ぐらいなら良いっか」
『うん。私は雄太くんと一緒だったら、それだけで嬉しいよ。みんなと一緒でも、雄太くんに会えるのは最高に嬉しいし、幸せだもん』
(うぅ〜っ‼ そんな事言われたら抱き締めたくなるだろっ‼)
思わず電話の前で気合いが入ってしまい、受話器を思いっきり握り締めた。
『だって、雄太くんが大好きだから』
「俺も春香が大好きだからな」
電話とは言え直接耳に『大好き』と聞こえたら気分は良い。憂鬱な気分も吹っ飛ぶと言うものだ。
『次はデートしようね』
「俺、頑張るからっ‼」
精一杯大人ぶってはみるものの、結局は無邪気な春香に振り回されている雄太だった。




