149話
春香は高速に乗る為に、栗東インターに向かって車を走らせる。
「お店の場所は四条だったよね」
「ああ」
父母からG2とは言え重賞も獲ったのだし、そろそろきちんとした格好をする場所にも出るだろうから、その為にスーツをと言われたのだ。
近場の店で色々見たがピンと来る物がなかったのと、サイズ的な問題もあり、オーダーメイドが良いのではないかと母が言うので、デートを兼ねて京都へ行こうと言う話を春香としたのだ。
✤✤✤
数日前
「雄太。今度の休みに一緒に京都のお店に……」
「母さん、わざわざ着いて来なくても良いから」
「え? 雄太そう言うのに疎いでしょ? 大丈夫なの?」
雄太の服の趣味は悪くはないが、オシャレかと言えば微妙だった。最近は、オシャレに目覚めた純也の影響もあり改善はされたが。
「行く前に、梅野さんに相談するから大丈夫だよ」
「そう。梅野くんなら大丈夫ね」
梅野のオシャレさは母の年代にもウケが良いのかと複雑な思いがしたが、春香とデートをすると言う事でテンションは上がっていた。
✤✤✤
(春香、運転上手いなぁ……。免許取って三年って言ってたけど、高速も乗り慣れてる感じするよな)
車線変更も合流も全く危な気なくスイスイ走っていた。
「なぁ、春香」
「なぁに?」
話し掛けても大丈夫かと不安になったが、問題はないようで、明るい声で返答が来る。
「春香は、何でこの車を選んだんだ?」
「あ〜。私ね、最初は免許も要らないかなぁ〜って思ってたの。でもね、仕事を初めてしばらくしたら、財界の方からも施術依頼が来るようになったの」
「財界?」
「そう。そう言う世界の方々ってね、トップの体調が悪いとかそう言う話が社外に出ると株価に影響あるらしいの」
雄太は頷いて聞いているが、ベンツと財界の繋がりが分からなかった。
「それと、忙しくて草津まで行けないとか、色んな理由で出張施術してたのね。で、そう言う依頼が増えたなら店名入りの車を買おうかって話になったんだけど、財界の方々から『極秘で』って依頼だったからやめにしたの」
「色々、複雑なんだな……」
「うん。でね、私が一人で施術に行けば良い時に、直樹先生に乗せてってもらうのも何だかなぁ〜って思ってて、免許取って車を買おうと思ったんだよね。で、どんなのにしようかって話をした時に直樹先生が『頑丈で、他の車に煽られたりしないのにしてくれ』って言われて、最終的にこれにしたの」
春香は時々思い出し笑いをしながら話す。
(直樹先生の心配も分かるなぁ……。ベンツなら頑丈だし、煽って来る奴も少ないだろうし。そう言えば、それなりの高級車乗ってる先輩達も、この車見て唖然としてたっけ? この車ならナンパされたりも防げるかも)
雄太は、ナンパされても上手くあしらう事が出来なさそうな春香を心配していた。
雄太の心配をよそに、春香は高速を降りて一般道へと出た。相変わらず市内への道は混雑していたが、春香は慣れた感じで運転していた。
「この辺とかも出張で来てたりしてた?」
「ん〜。この辺より、東山や洛北の方が多いかな。松ヶ崎とか」
(東山や松ヶ崎かぁ……。高級住宅街があるって所だっけ……)
雄太は、運転している春香をジッと見た。運転していても、ホワホワした印象は普段と変わらない。だが、出張施術しに行っていたのは財界と言う雄太には、まだ縁のない世界。
(普段は『東雲の神子』って言う感じは全くしないんだけど、やっぱり春香は凄いんだな。社会人として、プロとしては大先輩って感じだ。俺、追い付くどころか、背中も見えてないのかも……)
ただ、プロであるが故の苦労もあると分かっている。
(春香が俺に甘えたいって思った時に甘やかしてやれる男にならないとな。守って行くのは当たり前だけど、大切な女性だから、頼って欲しいし甘えて欲しいもんな)
自分の知らなかった春香の一面を知る度に、想いを強くしていく雄太だった。




