147話
雄太が靴を履いて外に出ようとすると、なぜか既に数人の先輩達が外に居た。そして、振り返ると雄太の後に続いて出て来ようとしている先輩達が居た。
(ちょっ‼ 何なんだぁ〜っ⁉ 何してるんだっ⁉ この人達はぁ〜っ⁉)
純也は梅野と並んで立っていたが、後ろを振り向きながら
「雄太、雄太。市村さん、人気者だな」
と、コソッと言った。
「うぅ……。俺、早く車買おう……」
「何買うんだよ?」
「もう何でも良いっ‼ こんな飢えたライオンの檻みたいな所に、俺の大事な春香を来させたくないっ‼」
雄太と純也の会話を聞きながら、梅野はクックックと笑う。
「純也は、どんなのに乗りたいとかあるのかぁ〜? やっぱ外車かぁ〜?」
「そうっすね。やっぱスポーツカーとかかなぁ〜。梅野さんのも格好良いし。正直、色んな車に乗りたいけど、しょっちゅう買い替えるだけの余裕ないっすから、長く乗る奴買うかも知んないっす。あ、ほら。あんなベンツも良いっすよね」
梅野に訊かれ、純也はこちらに向かって走って来る真っ白なベンツを指差した。
「黒だとおっかない人っぽいけど、白なら……あれ? 停まったっすよ?」
その声に、俯き加減で車を買う決意を固めていた雄太が顔を上げた。真っ白なベンツが寮の前でハザードランプを点けて停まっていた。
「何かあったんすかね?」
純也が故障でもしたのかと声をかけようとフェンスに近付いた時、運転席側のドアが開き、紺色のワンピースを着た春香が降りて来た。
(は……は……春香ぁ〜っ⁉)
雄太は、まさか春香がベンツに乗っているとは想像もしてなかったので、口をパクパクさせていた。純也もフェンス前で固まっていた。
車から降りた春香は寮の建物の前に居る雄太を見付け
「雄太く〜ん」
と、手を振った。
呆然としながら雄太は小さく手を振った。
「市村さん、開けたよぉ〜。こっち入ってぇ〜」
「梅野さん、ありがとうございます」
ゲートを開けながら声をかけた梅野に、春香はペコリと頭を下げて運転席に乗り込んだ。そして、危な気なく道路を横切りゲート内に入ると、梅野が手で示した駐車スペース内にバックできっちり駐車した。
車から降りた春香は満面の笑みを浮かべながら雄太に駆け寄った。
「雄太くん、おはよう。……雄太くん? どうかしたの? あれ? 皆さんも、どうかしたんですか?」
雄太をはじめ、周りの人達が呆然とした表情を浮かべ立ち尽くしているのをキョロキョロと見回した。
「梅野さん、皆さん何かあったんですか?」
「今日の市村さんがいつにも増して可愛いから、みんな見惚れてるんだよぉ〜」
ゲートを閉めて歩いて来た梅野に春香が訊ねると、梅野は楽しそうに笑いながら言う。
「やだ、もう。からかわないでください。そんなはずないじゃないですか」
春香は顔を赤くして答えた。
その声にハッと我に返った雄太は、春香をマジマジと見た。襟や袖口に白いレースが付いた紺色のワンピース。白いサテンのリボンがウエストの前部分で結ばれていてヒラヒラと揺れていた。ポニーテールにも白いレースのリボンが着いていた。
(は……初め見た……。厳密にはスカートじゃないんだろうけど、スカートの春香……。パンツスタイルじゃない春香……。か……可愛い……)
先週は乗馬が出来るようにとボーイッシュな格好だった。一番多く見たのは施術服姿。初めて見た年相応の女の子っぽい姿にドキドキする。
(マジ可愛い……。てか幼く見えるよな。俺と同級生って言っても通じそうなんだけど……)
そして気付いた。ワラワラと大勢の先輩達が外に出て来ていたのに、あり得ないぐらいに静かな事に。振り返ると先輩達は口をポカンと開けて固まっていた。
(アハハ……。そうなるよなぁ〜。ベンツに乗って颯爽と現れたのが、未成年にしか見えない可愛い女の子なんだから)
雄太は苦笑いを浮かべるしかなかった。




