14話
調教の時に邪魔にならなくて動きやすいのが良いからと、何軒も店を回り、試着をしてようやく決めたジーンズは無残な状態になっていた。
「た……確かに……。けどっ‼ ソルの言う事も分かるけどっ‼ 何か、ソルに言われると腹が立つ」
「何でだよっ⁉」
目の前で繰り広げられている掛け合い漫才のような会話にどうしたものかと春香は悩み、チラリと鈴掛を見る。
その視線に気付き、鈴掛は大きな溜め息を吐く。
「お前らなぁ……。春香ちゃんが困ってるだろ」
「「え?」」
二人が揃って声を上げて春香を見ると、ハサミを片手に持ちながら苦笑いを浮かべていた。
「……すみません……。切っても大丈夫です……」
雄太が答えると、春香は頷いて再び雄太の足元に膝を着く。
「はい。じゃあ 切りますね。少しだけ腰を前にずらせます? 膝の関節が座面より少し前に出る程度で良いですから」
雄太が少し腰を前にずらすと、春香は膝下まで切られていたジーンズをチョキチョキと切り進めた。
膝上まで切ると、ハサミの向きを変えてグルリと一周してハーフパンツくらいの長さにした。
「てかさ、雄太。普通に喋ってんのな?」
純也が思い出したように言う。
(え? あ……そう言えば……)
さっきまでの人に見られていなければ泣いていたかも知れないぐらいの激痛が、嘘のように楽になっていた。
(これは……痛み止めのおかげ…… か……? まだ痛みはあるけど……)
春香は切り終えたジーンズをキチンとたたむと雄太に手渡した。
「次は、筋肉を解しますね。かなり疲労が溜まっているようですし」
雄太は切り取られたジーンズをジャンパーのポケットに突っ込みながら
「お願いします」
と言った。
春香は頷くと、ふくらはぎを優しく包み込むようにしながら揉み解していく。
「立ち仕事の方や足を酷使する方は ここを解すと良いんですよ」
(ふくらはぎのマッサージって気持ち良いんだな……)
雄太が春香が言う事をのんびりと聞いていた次の瞬間、春香の指がふくらはぎの裏側をクッと押した。
「の゙お゙っ‼」
雄太の口から、言葉にならない声が飛び出た。




