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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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133話


 梅野は何度かシャッターを切った。ふと、カメラを下げると撮り終わったかと思ったのか、春香が雄太を見上げニッコリと笑った。それを見た雄太が今まで見た事もない優しい顔をして春香を見詰めた。


(おぉ〜。良い顔ぉ〜)


 サッとカメラを構えてシャッターを切る。


「ん? あ、雄太ぁ〜。フィルム終わったからさ、市村さんを送って行くついでに現像に出して来てくれるかぁ〜」


 梅野は、取り出したフィルムを雄太に手渡した。


「はい。じゃあ、行こっか?」

「うん。梅野さん、車と写真ありがとうございました。塩崎さん、また今度ゆっくり話しましょう」


 春香がペコリと頭を下げてから言うと純也が軽く手を挙げて振った。梅野はニッコリと笑う。


「はいっす」

「今度、一緒に食事に行こうねぇ〜、市村さん」

「はい」


 春香は再び頭を下げて車に乗り込んだ。




 寮を出てしばらく走った時、雄太は気になっていた事を訊ねた。


「春香。さっき、二十一歳って言ってたよな? いつ誕生日だったの?」


 恋人となったなら誕生日は知りたい。


「え? あ……うん。9月15日……」

(9月……かぁ……。会ってなかった頃だ。でも……9月?)


 雄太がチラリと自分に視線を送ったのに気付いた春香が少し俯く。


「よく言われるの。『秋生まれなのに、どうして春香なの?』って。おばあちゃんも結局教えてくれなったけど……。多分、要らない子だったから『ほるか(捨てるか)』から『はるか』になったんだと思ってる。おばあちゃんも言いにくかったんだろなって」

(え?)


 雄太は驚き、丁度あった左側の空き地に車を停めた。ハンドルを持った手が小刻みに震える。


(そんな……そんな名前の付け方って……。そんなだったら、春香って呼ばれたくないんじゃないのか……?)


 車が停まった事に気付いて、春香は雄太を見た。


「あのね……。そんな名前だから……大好きな雄太くんに名前を呼んでもらいたかったの。雄太くんがくれた膝掛けにも桜の刺繍があったし、初めて私の作ったお弁当を食べてもらったのも春だったから、春香で良かったって思いたくて……」


 そう言って、春香はそっとハンドルを握っている雄太の右手に自分の手を重ねた。


「あのね……私ね……。雄太くんは太陽だって思ったの。最初は雄太くんが……良い友達や良い先輩がいて、叶えたい夢がある雄太くんが眩し過ぎて、目を逸らそうとしてたの……。太陽が眩しいと影は濃くなるから……自分が暗闇に居るのがはっきりして来るのが悲しくて……」


 雄太は、春香の手が少し震えてるのに気付いて、左手をハンドルから離して春香の手に重ねた。春香は雄太を見上げた。


「でもね……。雄太くんはどんどんと……影が消えるぐらいに近付いて来てくれて……。だけど、私は弱い人間だから迷ったりして……雄太くんの想いから逃げて……。それなのに、雄太くんは私の手を引いてくれて、私が恋人で良いって言ってくれたから、強くなりたいって思ったの。雄太くんの隣に立って恥ずかしくない私になりたいなって思ったの」


 雄太も思っていた『隣に立っていて恥ずかしくない自分になりたい』を春香も思っていたと知り、胸が熱くなる。


(春香は弱くて強くて……。泣き虫なのに笑顔が可愛くて……。何も言ってくれなかったけど、こうやって話してくれて……。春香は変わろうとしてるんだ……。俺、うかうかしてたら置いていかれるかもな)


 雄太はシートベルトを外して春香を抱き締めた。


「いっぱい話してくれてありがとう。これからは、大事な事はちゃんと話そうな? もう黙ってアメリカに行くの決めるとかなしにしてくれよ? もし今度そんな事になったら、俺ショックで倒れるかも知れない」

「ごめんなさい。もう、どこにも行かない。専属のお話は、全部お断りする。私、雄太の夢を叶えるサポートをしたい。駄目……かな?」




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― 新着の感想 ―
写真を撮ってもらった二人。 そして梅野さん達は空気をよみ写真現像を頼み去っていく。 すると行く先で車を停め話す。 今までのお互いの気持ち。 そして雄太君も春香ちゃんもお互い強くなろうと決意する。 二人…
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