12話
雄太の返答を聞くと春香は頷き、ジェルをたっぷりと手に取ると両の手の平で雄太の足首を包み込んだ。
次の瞬間、ビリッと雄太の全身を痛みが貫いた。
(グッ……‼)
春香の手の平が、ゆっくりとふくらはぎ辺りまで上り、ゆっくりと足首に下り、足の裏へと辿りつく。
何度も何度もジェルを足しながら、足の側面前後と包み込みながらゆっくり動いていく。
雄太は時折走る鋭い痛みに顔を歪ませ、呼吸が荒くなりながらも声を上げずにいた。
(絶対……絶対に治して貰うんだ……。俺は……夢を叶えるんだっ‼)
縋るように肘掛けを握っていた手はじっとりと汗ばんでいた。
ふと足元の春香を見ると、半袖姿なのに汗がいく筋も流れていた。
何故だか目が離せなくなった雄太が見詰めていると、春香が
「ふぅ……」
と小さく息を吐いて顔を上げた。
「大丈夫ですか? かなり痛みがあったと思うんですけど……」
汗をかいている女性をマジマジと見ていた事を申し訳なく思い
「だ……大丈夫です……」
と答え、雄太は目を逸らした。
そして眠りこけている鈴掛と純也に気付いた。
(あ……鈴掛さん、週末に乗る馬の追い切りしてたから……)
よく考えれば早朝から調教をしていた鈴掛も、厩舎の手伝いをしていた純也も、もう寝ていてもおかしくない時間だった。
(俺……自分の事でいっぱいいっぱいだった……。悪い事したな……)
どんな礼をすれば良いかと考えていると
「えっと……あなたは……」
言い難そうに春香が声をかけて来た。
(あ……そう言えば名前を言ってなかったな)
「鷹羽です。鷹羽雄太」
雄太が答えると、春香が申し訳なさそうに
「すみません。お名前を伺ってなくて。後で、受付表に記入をお願いしますね?」
と言った。
「あ……いえ。時間外で無理を言ったのは俺の方なんで……」
(……この人にも迷惑かけてんだよな。仕事とは言え残業させる事になったんだし……)
雄太は、今自分がどれだけ周りに迷惑をかけているかと思うと申し訳なさでいっぱいになった。




