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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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121話


『市村さん』

「はい」


 受話器越しであっても、雄太に耳元で優しく言われると甘えてしまいたくなる。好きな気持ちが溢れてしまいそうになる。駄目だとは思っていても……。


『お祝いの花束、ありがとうございました』

「あ……。その……どうして私からだと……」

『分かりましたよ。俺、誰からの花よりも嬉しかったです』

「はい……。喜んでもらえて良かったです」


 言いたい事は、たくさんあった。でも、何から話せば良いのか分からないぐらいに……久し振りに話せた事で雄太の胸はいっぱいだった。


(明日……。明日、ずっと話せなかった分話そう)


 会えなかった時に考えた事。気が付けば、いつも心の中に春香が居た事。どんな話を聞かされても、春香に対する想いは変わらずにいた事。


(今は、今の時間に話さなきゃならない事をはなさなきゃな)

『気持ちは分かりますが、あんまり緊張しないでくださいね? 不安がっていると、馬にも伝わりますから』

「そうですね。馬は賢い生き物だって言いますもんね」

『そうですよ。今日は、早目に休んでください』

「はい。そうします」


 春香が緊張しているのは、雄太とデートすると言う事なのだが、緊張や不安が馬に伝わっては困ると思い、春香は小さく深呼吸した。今、深呼吸しても意味はないのだが……。


『じゃあ、明日の8時に』

「はい。鷹羽さん、お疲れ様でした」

『ありがとうございます。おやすみなさい』

「おやすみなさい」


 春香は、雄太が受話器を置いたのを確認してから、そっと受話器を置いた。


(鷹羽さんと話せた……。明日、会えるんだ……。ずっと……会いたかった……鷹羽さんに……)





 雄太は、受話器を置くと自分の手を見た。まだ、小さく震えていた。その手をギュッと握りながら、自室に戻った。


 ベッドに体を投げ出して、枕元に置いてある春香の膝掛けをギュッと抱き締めると、モゾモゾと掛布団の中に入り込み、春香の声を思い出す。


(やっと……やっと話せた。市村さんと……)


 何度も何度も話したくなって電話をかけようとした。手紙を届ける度に神社を覗いた。声が聞きたかった。姿を見たかった。


 花束を贈られてから、花束の意味通りの気持ちでいてくれるのか気になった。その花束の花は枯れてしまったが、壁には花束の写真が飾られていた。


(市村さんは、真っ赤なバラやカサブランカって言うより、カスミ草……だな)


 あの日、梅野が教えてくれた花言葉のように無邪気に笑う顔が見たいと思った。


(清らかな心……。市村さんは……綺麗だ……)


 『東雲の神子』として居る時はカサブランカかも知れない。そんな事を考えながら、雄太は眠りについた。



✤✤✤



 翌日月曜日


 春香は、昨夜準備しておいた服を身に着けた。


(これでおかしくない……? 一応、馬に乗れる格好にしたつもりだけど……。もし、鷹羽さんに指摘されたら別のにしたら良いかな?)


 この前買った白いフリルが付いた水色のカットソー。お気に入りの黒の細身のジーンズ。さすがにジョッキーブーツは持っていないので、膝丈のストレッチブーツにした。髪には、お気に入りの青いリボン。


 何度も鏡を見てチェックをする。初めてのデートにしてはオシャレな服ではないが、雄太に誘われた乗馬体験。ウキウキしないはずがなかった。


「直樹先生、里美先生。行って来ます」


 春香は、オフホワイトの薄手のコートを手に持って、隣の直樹達の自宅に寄った。


(あれが、初デートの格好……? どこに行くのかしら……?)


 普段買わないスカートやワンピースまで買ったと言うのに、それらを身に着けていない春香の姿に里美は驚いた。直樹はと言うと、ジーンズ姿の春香にホッとしたようだった。


「行ってらっしゃい」

「気を付けてな」


 二人が言うと、春香は少し頬を赤らめながら出掛けて行った。





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― 新着の感想 ―
雄太と話しデートの約束をした春香ちゃん。 馬に乗るという事でその格好は買ったものではなく動きやすいものだった。 それにどこへ行くのか? そう思った直樹さんと里美さんでしたが。 二人の中ではドキドキして…
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