115話
「純也……。お前、どれだけ食うつもりなんだ……? しかも、カルビとかばっか……」
鈴掛は、脂っこい物をガツガツと口にしている純也を見て、ウンザリと言う顔をする。純也は顔を上げて、ゴクリと口の中の肉を飲み込む。
「次いつガッツリ肉食えるか分かんないから、その分も行っとくっす。体重ヤバくなったら、トレセン周り走ればオッケーっすから」
そう言って、また肉を口にする。確かに純也は太りにくい体質ではあるし、少し体重を落としたいと思ったら十Kmくらい走れば大丈夫と本人が言っているし、実際そうだった。
「純也ぁ〜。肉も良いけど野菜も食べようかぁ〜?」
「野菜は、いつでも食べられるし今日は遠慮しとくっす。梅野さん、カルビ追加して良いっすか?」
「え? うん、良いけどぉ〜。今日は雄太のお祝いなんだって事を忘れてないかぁ〜?」
さすがの梅野も苦笑いを浮かべる。確かに良い食べっぷりで、見ていて気持ち良いものではあるのだが、雄太も唖然としてしまう。
「ソルの場合、食って走って……だからなぁ〜」
雄太は、箸で肉をつまんだまま、肉を三枚重ねで食べる親友を見て笑う。
「ヒデェーな。それじゃ俺、馬じゃね?」
「かもなぁ〜」
「確かに」
純也が、雄太に文句を言うと、梅野と鈴掛が真面目な顔をして頷いた。雄太が、堪えきれず吹き出すと鈴掛も梅野も爆笑した。
「鈴掛さんも梅野さんもヒデェーっすよぉ〜。ま、良いや。俺が馬なら、もっと食って体作ろうっと。梅野さん、このシャトーブリアンとか言うの食って良いっすか?」
「純也、馬なら野菜食っとけぇ〜」
「野菜は雄太にやる」
純也は、そう言って野菜をポイポイと雄太の取り皿に放り込む。
「ソル。人参入れんなよ」
雄太は、顔をしかめて取り皿に入れられた人参を純也の取り皿に放り込み返す。
「雄太〜。子供じゃないんだから人参も食えよ〜」
子供のように肉をガッツく純也が、雄太を子供と言うのを聞いて、鈴掛も梅野もまた爆笑してしまった。
「お前ら、二人共 子供だからな?」
「子供が子供って言うなよぉ〜」
「ヒデェー」
「酷いですよ」
笑い溢れる四人だけの祝賀会は、夕方近くまで続いた。
✤✤✤
雄太の自室は、カサブランカとバラの甘い香りがしていた。他の花は母の好きなようにしても良いと伝え、春香からの花束だけを花瓶に生けてもらい、自室に飾ってもらっておいたのだ。
焼肉屋に行く時に買った使い捨てのカメラで祝賀会の様子を撮影して、少しだけ残しておいた分で花束の写真を撮影した。
(市村さんからの花束……。梅野さんが居なかったら、ただの花束って思ったよな……)
テーブルに置いておいたメッセージカードを手に取り読み返す。そして、指で文字をなぞる。
いつから、春香が自分を想っていてくれたかは分からない。直樹から親の事があるから自分からの交際の申し込みを断ったと言われたから、その前である事だけは分かったが……。
簡単に解決出来る問題ではないのは嫌と言う程分かっている。諦めた方が良いのではと思ったりもしたが、やはり好きな気持ちは薄れる事はなく、むしろ強くなっていた。
(清らかな心で一日中想っています……か……。市村さんが、本当にそんな気持ちで居てくれるなら……)
焼肉屋からの帰りに梅野がコッソリと自分に言った言葉を思い出す。
「雄太ぁ〜。激しい炎とか熱い炎って赤とかイメージするけど、マジで温度が高いのって青だって知ってるかぁ〜?」
(静かに熱く燃える青い炎……。市村さんの蒼い想い……。今の俺に出来る事……。親の事は何とか出来なくても、市村さんの背負う重い荷物を少しでも軽くしてあげたい……。なくす事は出来なくても、少しでも軽く感じるように支えてあげたい……)




