101話
(い……今のは不意打ち過ぎっ‼ ヤバ……。口から心臓が飛び出そうだ……)
雄太は少し上を向き小さく深呼吸をして、隣に座っている春香の方を見ると、頬がピンクに染まっていて思わずジッと見詰めてしまった。
(やっぱり可愛いなぁ……。三歳も年上の女性とは思えないな……)
ジロジロ見るのは失礼かと思い、また視線を上げ、ヒラヒラと花弁を舞わせる桜の花を見る。
一方、春香は自分で自分の頬が熱くなっているのを感じながら
(心臓が爆発したらどうしよう……)
と、とんでもない事を考えていた。
(あ……そうだ)
春香は、自分の持っていた弁当箱を見てふと思い立った。
「あ……あの……」
「はい?」
小さな声が聞こえ視線を向けると、春香が弁当箱を差し出していた。
(え?)
「あの……良かったら、どうぞ……」
「どうぞって……俺が食べても良いんですか?」
どうぞと言いながら差し出しているのだから、そうなんだろうと思うが訊ねてみた。
(市村さんの手作り弁当っ‼ まさかこんなラッキーな事があるとは思ってもなかったぞ。神社に寄って良かったぁ……)
雄太が心の中でガッツポーズをした時 、春香が差し出していた弁当箱をスッと自分の方に引っ込めた。
(え? オアズケ?)
せっかく食べられるかと思ったのを引っ込められてショックを受けていると 、春香が困ったような表情をして弁当箱を見詰めながら
「騎手の人って、体重管理が大変なんですよね? 唐揚げなんて食べちゃ駄目なんじゃ……」
と、残念そうに言った。
(あれ? 俺、そんな話したっけ?)
今まで春香と話した内容を思い出してみる。
(ん〜 。覚えがないんだけど……。市村さん、どこでそんな話を聞いたんだろう?)
「大丈夫ですよ? 確かに体重管理はしないと駄目ですけど、しっかり食べないと筋力が落ちますし、筋力が落ちたら御せなくて馬に振り落とされますから。てか、俺がそれ食べたら市村さんの分は?」
弁当は一つ。
雄太としては好きな人の手作り弁当は食べたいが、せっかく花見をする為に作って来た弁当を作った本人ではなく、自分が食べてしまっても良いものかと悩む。
「えっと……鷹羽さんが良いなら食べてください。私……今……む……」
そう言って、また弁当箱を差し出した。
(む……? むって、何だろ?)
あまりにも小さな声だったので聞き直そうかとも思ったが、春香が弁当箱を差し出したままの姿勢だったので、雄太は弁当箱を受け取った。
(む……胸がいっぱいで……ドキドキして……どうして良いか分からない……。好きな人と会うって、こんな感じになるものなの……? あ……)
春香は箸を握ったままなのに気付き、箸を雄太に差し出した。
「どうぞ」
「ありがとう。じゃあ、遠慮なくいただきますね」
雄太は箸を受け取ると、一番最初に目についた唐揚げを口に運んだ。
「え? うまっ‼」
思わず大きな声が出た。
「ほ……本当ですか?」
不安そうに見詰めていた春香の顔が輝く。
「マジで美味いです」
雄太には料理の事はよく分からなかったが、冷めているのに油っぽくなく、噛むたびにジワッと旨味が口いっぱいに広がる。
しっかり噛み締めて飲み込む。
(これ、どうやって作ってるんだろ? マジ美味いなぁ……)
パクパクと食べていたが、掻き込んでは勿体無いと食べる速度を落とす。
綺麗に巻かれた出汁巻き玉子。
一口サイズの鮭のムニエル。
茹でたブロッコリーやミニトマトでさえ、いつもより美味いと思ってしまった。




