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ふたりの関係

「分かった! じゃあ、あなたに好きになってもらえるように頑張るね!」


 昼休み、裏庭にて。

 ベンチにふたり並んで、昼食を摂る。

 恐る恐る結婚の話を切り出し、『貴方に恋愛感情があるのか分からない』と言ったルシルに、アルは特に不快に思う様子もなく微笑んでそう言った。


「えっ。で、でも、貴方って王子様なのよね? ずっと私にこだわっていたら、貴方のお父様やお母様が心配してしまうのではないかしら……」


「あはは、ないない。俺、三番目だし、王位は一番上の兄さんが継ぐから。父さんも母さんも、俺が男と結婚するつもりだと思ってたみたいで、ルシルと結婚したいって言ったら泣いて喜んでたし」


「そ、そう……」


 アルの両親のことを想像して、ルシルは少し複雑な気持ちになった。


「俺は別に男だからどうとか、女だから好きとか、そういうのじゃなくて。俺はルシルが好きなだけだから」


「そう……」


 素っ気ない返事をしながらも、自身の顔が火照るのが分かり、ルシルはそれを隠すようにソフィアが作ったサンドイッチを頬張った。


「俺が好きなのは、十年前のあの日からずっと、ルシルだけだから。簡単には諦めませんよ? 俺、結構しつこい男なんです。覚えておいてね?」


 ふわりと彼のウィッグがなびく。

 ずっと可愛いと思っていた彼に、最近のルシルは何故か格好良いという感情を抱くようになった。

 好きだと言ってきたのはアルなのに、何故か自分ばかりがドキドキしていて、彼は案外余裕そうで。


(ずるい)


 そんなことを思いながら、サンドイッチの最後の一欠片を自身の口に放り込んだ。





「あ、そうだ! ルシル、もうすぐ誕生日だよね? 何か欲しいものある?」


 放課後、自宅まで送っていくというアルに気にしなくて良いと断ったルシルだったが、心配だからどうしてもと言われ、傍から見れば女の子が女の子を家まで送迎している図になっている最中。

 他愛のない会話の中で投げかけられた質問に、どうして当たり前のように自分の誕生日を知っているのかと問い詰めたくなったルシルだったが、『あなたのことなら何でも知ってるから!』という言葉が返ってきそうなことが簡単に想像できてしまい、尋ねることをやめた。


「別に気にしなくていいわよ。そう言ってくれるのは嬉しいけれど、誕生日だからといって、誰かに何かをねだりたいという気持ちも無いの」


「えー! 謙虚か!? 俺は親にも兄さん達にもねだりまくりだよ? 新作のドレスとか、靴とか」


「そ、そう……」


「なんかみんな、渋い顔するんだけどね。昔は男がドレスとか恥ずかしいからやめろって言われてたけど、全部無視して女の子の格好し続けて早何年って感じになったら、誰も何も言わなくなったよ。たまに微妙な目で見られるけど、俺が可愛いからだろうね」


「なるほど……」


 アルにドレスをねだられる彼の両親や兄達のことを想像するとなんとも言えない気持ちにはなったが、それでもアルにはドレスが似合うし可愛いから仕方ないかと、結局はその考えに落ち着いたルシルだった。


「まあ、アルが可愛いのは事実だものね。アルの誕生日には何か貴方に似合うものをプレゼントするわ。ドレス……は私には手が届かないかもしれないけれど、何かアクセサリーとか」


「え! ほんとに!? あなたから貰えるならその辺のゴミでも何でも嬉しいよ! 末代まで語り継ぎます。楽しみにしてるね!」


「さすがにゴミはあげないわよ……」


 アルは足を止め、嬉しそうにルシルの両手を握ってぶんぶんと振る。そんな彼のことをルシルは可愛いと思い見つめていると、彼はハッとしたように手を止めた。


「って、違う違う! 俺の誕生日のことじゃなくて! あなたの誕生日! あなたの欲しいものが知りたかったのに!」


「本当に気にしなくていいのよ。婚約のことも保留にしているし、貴方に何かを貰う立場でもないもの」


「でも、あなたは俺にプレゼントしてくれるんでしょ?」


「それは……。それとこれとは別よ」


「え、ずるい。とにかく、俺があげたいだけだから! あなたにプレゼントしたんだ俺ーって、あとで何回も思ってニコニコしたいだけの自己満足ですから! 見返りとか求めないから! ……たぶん」


 最後に小さな声で付け加えられた『たぶん』に一抹の不安を感じるルシルではあったが、彼の勢いに押され、次の休日に街でルシルの誕生日プレゼントを共に探す約束をしてしまうのだった。


 『楽しみにしているわね』と無意識のうちに言い、自分は彼と出かけることを楽しみにしているのかと自分の言葉に気づかされる。

 自分の気持ちが分からずに戸惑うルシルを見て、アルは過剰に喜びたかったところだが、『俺も』と微笑んで言うだけにとどめた。

 夕暮れ時。曖昧な関係とは真逆に、ふたりの影は寄り添うように伸びていた。


 求婚したアルと、それを保留しているルシル。ふたりの関係は、もう友人とは言えないのかもしれない。

 いつの間にか昼休みはふたりで昼食を摂るのが自然になっていたし、放課後は一緒に帰り、休日は予定が合えば一緒に出かける。そんな関係は、友人以上にも思える。

 苦手な時もあるけれど、嫌いじゃない。同性だと思っていた時は友人として好きという感情を抱いていた。

 アルとの関係にまだ名前は付けられそうになかったが、自分に好意を向けてくれる彼のことを、ルシルは嫌だとは一度も思ったことがなかった。


 次の休日はどんなドレスを着ようかと、普段は動きやすい決まったドレスばかりを身に纏っているのに、いつもは着ない余所行きのドレスを頭に思い浮かべた自分を、ルシルは不思議に思った。

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