第4話 聖剣の担い手と機械仕掛けの魔法使い
直後、降り注いだのは無数の剣。
鋭い切っ先は混成体の肉体を易々貫き、地面に縫い付ける。
しかしそれから逃れることが出来た一体の混成体は引き続きセキレイを狙う。だが最も彼女に接近していた一体の上に今度は人が降ってきて足蹴にした。
その人物は両手にエルボ付きの鉄パイプを握りしめていて、そしてその鉄パイプは碧色に光る剣の幻影を纏っていた。
幻影の刃で彼は混成体の首をはねる。
「殲滅なさい、ソードファミリア!」
呆気に取られているセキレイのすぐ目の前に、また別の人影が音も無く着地した。純白の姿に荘厳な黄金彫刻をちりばめた、長い銀色の髪をした女性と思しき人物。
肌でもなければ服でもない異様な質感をした表層。肩や股関節と言った各関節部からはぎらりと銀色に輝くピストンがシリンダーの中を動作に合わせて往復していた。
長い脚には足首のような箇所が無く、ふくらはぎには何枚もの板が重なり合い、その合間からは青い光が溢れ出していて彼女を地面から数センチほど浮かび上がらせている。
彼女の号令に応答するように、青く燃え出す混成体たちに突き刺さっていた剣たちがひとりでに浮揚し、残った混成体を穿ち、切り裂いてゆく。
そうしてあっと言う間に混成体は殲滅され、剣は白い女性の背中へと集結し整列。クロークのように女性を包んだ。
発火して崩れてゆく混成体たちを見渡し、言葉を無くしていたセキレイへと女性はおもむろに振り返る。セキレイもまた、慌てて彼女を見た。
「わぁ……きれー……」
剣で出来た外套に異質なその身を秘匿しながら、唯一はっきりと全貌を視認することの出来る女性の顔はまだあどけなさの残る少女のそれであった。十代後半のセキレイよりも幼く、そして唯一肉感的な部分。
煌めきを纏う銀髪は艶やかで、白い肌は瑞々しくきめ細やか。豊富な睫毛で飾られた真紅の瞳は宝石のようで、それらを纏めて頭上に浮揚する欠けた円環が照らし出していた。
「貴女、何者?」
「え……? わあっ!?」
気の強そうな声で少女はセキレイを追及すると、彼女が身に纏った剣たちの一部がセキレイを取り囲み切っ先を突き付けた。
狼狽するセキレイ。少女はそんな彼女の、七色に輝きを変える特異な双眸を見詰めてムッとした表情をする。
「驚いてないで答えなさい! でないと実力行使よっ」
「えっ、えーーっ!? ちょっと、ちょっと待ってよ!」
「落ち着けよ、ブリキ姫」
少女がセキレイに顔を近付けるのに合わせ、一斉にその切っ先を近付ける剣たちになおのこと動揺してしまうセキレイ。
だがそんな少女を引き留めたのは、最初に落ちてきた人物の声であった。
不愉快そうな顔をする少女とセキレイの視線が声の方に向く。
「黙りなさい、アーサー! 今度わたくしをそう呼んだら、次こそ貴方を串刺しにして八つ裂きにするから」
「おお、コワ。……つーかさ、あんた」
濃紺のシャツを着てジーンズを穿き、足元には赤いスニーカー。赤いニットキャップを被り、偏光レンズのサングラスをかけたその黒人の青年は、噛み付く少女を無視してただの鉄パイプをセキレイへと向ける。
「あっ、わたし? セキレイって言いまーす! 敵じゃないので、この剣退けてもらえませんか~……?」
勝手に自己紹介と要求を述べ、えへと舌を出して愛想笑いするセキレイを少女と青年は怪訝な目を向け困惑の表情を浮かべた。