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第3話 シショー流

「互いをしっかり掴まえて、とくに子どもは――っ」


 セキレイは父親の襟首を掴まえる。その行動に彼女が何をしようとしているのか察した父親は母親と共に兄妹を抱え込み結束。


「あとはよろしくねぇえええっ!!」


 成人二人及び子ども二人の計四人をセキレイは片手で集まった人たちの中に放り込む。親子が皆に受け止めてもらえたことを確認してから、彼女は振り返る。


「ルシュ! なにあれ!?」

『あー、見たところ人と獣の混成体……かな』

「まんまじゃん!」


 陥没した地面から這い出てきた存在。それは全身を剛毛で覆い、ネコのような鉤爪と犬のような牙を備えた人型であった。


 唸り声を上げ、敵意と殺意を向けてくるそれらに対しセキレイは背負った剣を右手に取る。そして手中で柄を回転させ、刃と峰を入れ替えた。


『峰打ち?』

「人なら斬っちゃマズいでしょ」

『アレに気遣いが意味を成すのか疑問なんですが……』

「なんでも試してみるべきっしょ!」


 吠えた一体がルシファーと会話中のセキレイへと襲いかかった。


 牙を剥き出しにして、彼女の頭蓋骨を噛み砕かんと迫った強靭な顎はしかし固い踵を受け、歪みながら弾き飛ばされる。セキレイの放った回し蹴りだ。


 派手に錐揉み旋回しながら地面へと墜落し、転がり回った末に沈黙する混成体。他の混成体たちはそれを見て一瞬間を開けたのち、今度は一斉にセキレイへと飛び掛かる。


「でも剣は言うこと聞かない悪い子への最終手段。言って聞かせるまでは……」


 シショー流でいく――剣を握った右手。セキレイはその手で混成体の一体を殴り倒す。直後に身を翻し突撃を躱し、襲い来る三体目の混成体の、琥珀色をした両目の合間にある小さな額へと肘を叩き付けた。


 くるりと片脚で身を翻したその様は踊り子が如く、なびくコートの裾は彼女の名前の由来となった鳥の姿を想起させる。


 彼女が言う“シショー流”とは、彼女の師匠であるベイクという人物の戦い方のこと。それは剣技より生来の四肢を用いた打撃主体の戦法である。


 セキレイはさらに一体、もう一体と次々湧いて出てくる敵を殴り、蹴り、投げ倒してゆく。彼女がそうやって大立ち回りを演じることで混成体たちは彼女に群がる形となり、結果として周囲への被害の拡散が抑えられていた。しかし……


『ほら、やっぱり。半端な攻撃では倒せませんよ』


 ルシファーが言う通り、セキレイが殴り倒しても混成体はすぐに起き上がり戦闘を継続する。どうやら剛毛と骨格の強靭さで打撃に対しては滅法強いらしい。


 剣で喰らいついてくる混成体の一体を振り払い、隙を突いて肉薄してきた二体目の顎に膝蹴りを見舞って封じ、すぐに前蹴りで突き飛ばしたセキレイは辟易とした調子で応えた。


「うーん、でも素性も知れないし……」

『不器用な……。手足の腱だけ斬るとか色々あるでしょう。ベイクはそうやって敵を制圧してましたよ』

「知ってますー。忘れてただけだもん。もう思い出したからヘーキでーすーだっ!!」


 セキレイが手中で柄を回す。

 剣の刃が向きを変え、敵へとその深紅の輝きを見せた。


 その輝きに危険を覚えた混成体たちが一斉にセキレイを仕留めんと動き出そうとして、しかしセキレイの足が動き出す方が遥かに疾かった。


 彼女の姿がにわかに消失し、蒼白い稲妻を纏う深紅の煌めきが敵陣を駆け抜ける。


「ライトニング――」


 そして右手以外の手足で勢いを制しながら再び元の地点に姿を現したセキレイは、姿勢を正しつつ手にした剣を振り払い決め台詞を完成させる。


「――ボルト!!」


 すると、動き出そうとしていた混成体たちは手足から鮮血を噴き上げながら次々に倒れてゆく。


 一息吐くセキレイの白金の髪はほのかにだが光を放ち、光からは稲妻が生じて宙空へと散っていった。得意そうな表情を浮かべる彼女の意識にルシファーの声が響いた。


『奴ら、まだ動く』

「く……っ」


 赤面し身構えるセキレイへと、血だるまになった混成体たちは這いつくばり転がりながら牙を剥く。そんなときだった。セキレイの頭上をいくつかの影が通過していったのは――

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