第1話 次元間移動
新興都市グレイシティの郊外に広がる森林地帯。自然再生技術を用いて再生されたその森林に異変が生じていた。
深夜。本来ならば眠っているはずの動物たちが目を醒まし、森から離れようとしていたのである。
その夜は晴天で一面に星が広がっていたが、その空に突如として一筋の雷光が迸る。それは森林のど真ん中へと落ち、閃光が一帯を一瞬で通り過ぎ、そして爆発と衝撃が生じた。
爆心地では木々が薙ぎ倒され地面が吹き飛び、余波が森を戦かせる。爆発の中心では未だに青白い稲妻が漂い、歪む虚空の中に白く輝く一人の少女が在った。
うずくまっていた少女は直後にすっくと立ち上がり、かぶりを振って特徴的な白金の髪を踊らせる。その髪から放たれていた光が収縮を始め、彼女が右腕にはめていた金色の腕輪に消えた。
白と黒で彩られたロングコートを身に纏い、深紅の刃をもつ片刃の剣を背負った少女は周囲を見渡して小さな肩を竦める。
「被害甚大、ね」
『次元の移動はね、大変なんです。もう少し時間をかければもっと大人しく遷移できました。セキレイ、あなたが急かすのが悪い。おかげでこの次元のためにあなたをチューニングする時間も無かった。救うどころかこのままじゃこの次元が潰れる』
「仕方ないでしょ、アイツの手がそこまで迫ってたし……」
『……そういうことにしときましょう』
「ルシュ、言いたいことあるなら言えば?」
「じゃあお言葉に甘えて……早く移動した方が良いぞ」
腕輪から飛び出して少女の眼前まで浮揚した、ホタルのように小さな光と会話するセキレイと呼ばれた少女。やがて光は消失し、セキレイが南西の方角を見る。
その方角から、騒々しいヘリの羽音が近付いてきていた。
「こんな事件起こしたうえに捕まっちゃ面倒は避けられなさそ」
頭を掻いて、セキレイは急ぎその場を走り去るのだった。