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魔法博士と弟子兄妹  作者: 方円灰夢
第七章 ツィトロンの花咲く都
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【一】 教皇領へ

ジュードニア王国王都に作られたフネリック王国大使館、その空挺広場。

そこにノルドハイム王国空陣隊の大魔鷲と、移動用函車、そして数頭の天馬が飛来した。

ディドリクの意を受けて、フネリック王国経由でやってきた輸送部隊である。

教皇領へと移動する日の早朝、その空陣隊の函車から降りてきたのは、先日紹介されたヨーン・ズデーデンシーバー。

ところがその後ろから降りて来たヴァルターの姿を見て、ディドリクのみならず、ヘドヴィヒも驚いてしまった。

「殿下、わざわざお越しいただけるとは」


そんなヘドヴィヒを横目に見つつ、ヴァルターがディドリクに再会の挨拶をする。

「教皇領へ行くのなら私も特使として教皇に謁見させてもらおうと思ってね」

聞けば3年近く前の王位就位式以来、まだ王族が教皇領へはあいさつに来てなかったため、この機会に便乗させてもらった、ということだった。

既に本国ではノルドハイム王国空陣隊との輸送契約が締結されており、今回の輸送もフネリック王国の名目で出されるため、ヴァルターが運賃を払うと言う妙なことになっているらしい。

とはいえ、実際の輸送費の方が上回るため、通常の輸送費用よりもヴァルターの分だけ格安になっている、ということなのだが。


暗殺部隊の一翼、妖術師ノトラの所在が不明なのが気になってはいたが、彼らの目的であるディドリク達がいなくなれば、そう大きな動きは起こすまい。

そう思って、ディドリクは二人の妹、ブロム、ペトラ、ノラ達を連れて、ヴァルターとともに空路、教皇領に入ることになる。

既にジュードニア王国内乱騒動以降、教皇領にあるフネリック王国大使館、及び大使のボーメン卿とは連絡を取り、空路で入ることも知らせている。


荷物を詰めて、函車に乗り込もうとしてディドリクはそのデザインに驚いた。

外観は以前とほとんど変わらなかったのだが、内装はクッションをふんだんに敷き詰め、取っ手の数が以前乗ったものよりはるかに多い。

「若い人や、御婦人、空の旅の未経験者が多いので、フネリック王国仕様も兼ねて、少し改装したんだ」

とヴァルターの説明。

改めて外観を見ると、以前は無地だった外壁の一部に、フネリック王国の紋章がペイントされている。

さらに、函車から降りて外観を見ていると、なじみの顔が近づいてきた。

「殿下、この大魔鷲はうちで育てた子たちです。どうか安心して旅を楽しんでください」

その姿を見て、メシューゼラが声を上げた。

「リカルダ!」

「今回の主操縦者はリカルダに頼みました。この大魔鷲も、ゴルスメット家で飼養されてきた熟練の大魔鷲です」

ヴァルターがそう説明すると、メシューゼラがリカルダに飛びついていく。

「リカルダが操ってくれるのなら、安心だわ!」

ノルドハイム王国からの帰路、メシューゼラはリカルダの操る天馬に乗って、大空を体験していた。

そのことで、すっかり打ち解けていた二人であった。

「兄ハルブラント王太子に、君の言ったことを伝えたんだよ」

「僕の言ったこと?」

「そ。よこしてくれるなら、顔を知った者の方が良い、ってね。すると彼女の派遣を許してくれたのでね」

他にも大魔鷲や天馬を駆る者もいるのだが、メインの操縦者はリカルダと言うことになったらしい。


内装がすっかり変わっていたが床面積は変わらないため、全員が一つの函車に入るとかなり窮屈。

しかし現地についた後は帰りが別々になるため、あえて函車を減らしたとのこと。

現在いるジュードニア王国王都タルキスは王国の北方にあり、教皇領は王国の南方。

同じジュードニア国内と言っても、領土そのものが広いため、陸路だと数日はかかる。

ところが空陣隊の翼にかかれば半日程度で着くと言う。

「ノルドハイム―フネリック間より少し長い程度かな」

説明しつつ、ヴァルターも乗り込んでくるが、ヨーンは天馬で空を楽しむと言う。

そう言えば、以前、スピード狂、みたいなことを言ってたっけ、と思い出した。


函車が少し揺れて、空へ舞い上がった。

ブロムは初体験のはずだが落ち着いている。

しかしノラは目を閉じて、床に設えられた取っ手につかまって、目を閉じたまま固まっていた。

メシューゼラはヘドヴィヒとともに窓から外の景色を眺め、アマーリアはディドリクの腰のあたりにしがみついて、一緒に座っている。

「アマーリア、多少は揺れるだろうけど、うちのリカルダの操縦は隊の中でも一二を争うくらい安定しているから、安心だよ」

ヴァルターがそう言ってくれるものの、やはり初めて体験する揺れでもある。

幼いし、怖いのは仕方ないだろう。

ディドリクは正装の上からローブをはおっていたが、その中に潜り込んでベルトを両手でつかんでいる。

その上からローブをかぶせて、外側から肩を抱いてやると、かなり安心したようではあるが、それでもそこから離れようとはしなかった。

ヴァルターはその間、両王家の事情などを伝えてくれた。


ノルドハイム王国でも、あの就位式のあと、ハルブラント王太子がヒュッテンスタム家令嬢アガーテと結婚し、先頃ようやく懐妊したとか。

一方フネリック王国でも、ディドリクの異母兄であり王太子でもあるガイゼルが先頃結婚したことを伝えた。

「またお祝の式をやってもいいね、両家の跡継ぎ誕生という名目で」

「いえ、ガイゼルの方はまだ結婚したばかりですので、もう少し先でしょう」

そう言ってディドリクは、結婚のときに戻れなかったことを後悔していた。

しかし、各国王家の男児を狙う暗殺隊は未だ健在である。

こちらをなんとかしないと落ち着いてお祝いもできない。

そんなことを考えていると、顔に出てしまったのだろうか、ヴァルターが声を落としていった。

「公務は言い訳なんだけどね、僕も君のやろうとしていることを手助けできたら、と考えているんだよ」

幸いなことに、四大王国にはまだ暗殺隊の手は伸びていない。

しかしジュードニアに多数の潜入があったように、大国と言えども暗殺隊は潜入しているかもしれない。

そのことを思えば、早期に対策をしたい、協力したい、と言うことなのだろう。


「キンブリー公国は?」

ディドリクがこう言うと、ヴァルターが少し笑みを浮かべて

「エルガ嬢が君に会いたがっていたよ」

「いや、そっちじゃなくて」

ディドリクも苦笑いしつつ、あのマリア事件の後のことを聞き直した。

「何もないよ、君が助けたレーヴェもその後すくすくと大過なく育っている。公国としてはなんとか一安心さ」

「そうか、暗殺隊の追加はなかったんだね」

そう言って、ニルル王国でもあった暗殺事件を簡単に解説しておいた。


「やはり僕もその暗殺隊の撲滅には関わっておきたいね」

とヴァルターは言ったものの、今回連れて来た戦力ではさすがに無理だとわかっているのだろう、しばしの思案。

「今回は僕くらいしか協力できないけど、手伝わせてくれないか」

と言ってきたので、受け入れておいた。

北方大国正嫡の第二王子という立場を抜きにしても、そうとう強力な魔術師でもあるヴァルターの手伝いは、いろいろと頼もしい。

ただし今回はペトラも連れているので、と思い、ディドリクが少し彼女の方に視線を移したのを見て、

「僕は姉とは違うから、君の褐色の敏腕メイドと共闘するのに、何も問題はないよ」

と言って、微笑む。

そこでディドリクがペトラを呼んで、ヴァルターに引き合わせた。

既に王都での襲撃事件で顔は合わせていたが、あの時はジークリンデが強烈な敵意を見せて拒絶したので、あらためて、ということだ。

「ペトラ、もう知ってると思うけど、ヴァルター殿下だ。教皇領では我々の協力者になってくれる」

「ペトラ、できれば敵意を解いてほしい。僕は姉とは違うから」

ペトラはディドリクの顔をチラリと見て

「殿下がそう言われるのであれば」

と言って、ヴァルターに向き直り、挨拶をした。


空陣隊の一軍は、教皇領へ入り、フネリック王国大使館に用意された広場へと向かっていく。

そしてその間、アマーリアはずっとディドリクの傍らに抱きついたまま、ベルトをつかんでいた。



教皇領にあるサン・マルコ教会。

そこに儲けられた新たな聖堂の天井壁画の制作にあたっていた画業工房のラボージェ親方が、昼休みの指示を出した。

取り付けた台座やはしごから次々とおりてくる絵師や徒弟。

絵具でドロドロに汚れた彼らに、湯やタオルを持ち寄る見習い工や入門したばかりの新入り徒弟たち。

そんな中にあって、何人か。女性の姿も見受けられる。

徒弟の恋人だったり妻だったり。

そんな中、ラボージェとともにはしごを降りて来た徒弟頭・アントーニオに駆け寄る少女エンリケッタ。

彼女は親方ラボージェの娘であり、早くから工房での補佐をやっていた。

ラボージェは早くに妻と死に別れ、エンリケッタと二人暮らし。

画業一筋の人生で、唯一好きになった妻と死別のあと、再婚するでもなく、娘と二人で暮らしていた。

アントーニオはまだエンリケッタが幼い頃から親方の元に徒弟として入り、めきめき腕を上げてた実力者。

素直な性格で粘り強く、また色彩感覚にも優れていた。

ラボージェもアントーニオを可愛いがり、ゆくゆくは自分の後を継いでほしいとまで思っているのだが、アントーニオの方は入門してきた時と同様、絵のことしか頭にない。


エンリケッタがアントーニオに「はい」と言って、湯で蒸らしたタオルを渡す。

「ん」とだけ言って、アントーニオはそれで顔を拭く。

「おい、俺より先かよ」と言う父ラボージェに、

「たまたまよ。順番なんかで怒らないで」

と笑いかけるエンリケッタは、まだ芳紀一歩手前の15歳、といったところ。


「親方、どうやら予定内におさまりそうですね」

「そうだな、ここんとこ依頼が続いたから、これがすんだら休めるぜ」

「俺は休みたくないです。もっとどんどん仕事をして覚えたい」

ははは、と笑いながら、ラボージェは二人と、何人かの徒弟を交えて、昼飯に繰り出した。


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