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魔法博士と弟子兄妹  作者: 方円灰夢
第六章 君よ知るや南の国
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【十三】 乱戦

空を切り裂いて、氷弾が高速で打ち出された。

認知結界で察知していたこともあり、標的のディドリクは路地に飛び込み難を避ける。

「きゃん!」

だがそこである少女と衝突。

前回はメシューゼラが、今回はディドリクがぶつかるのだが、その相手が先日ルチアから紹介されたカルロッタだった。

路地の側から声をかけようとしていたカルロッタ。

しかしいきなりディドリクの方が自分めがけて突っ込んできてしまい、悲鳴以外の声が出せなかった。

ディドリクについでペトラも路地に駆け込んでくるが、そこへさらに氷弾が襲い掛かってくる。

ペトラはディドリクとカルロッタを後ろにして、それを短剣で払い落とす。

狭い路地に入りこんだことで、逆に氷弾の進路が見やすくなり、短剣でも払えるほどになった。

だが、その氷弾は直線だけでなく、コースも変えられるらしく、大通りから次々と飛んでくる。

ディドリクとペトラはカルロッタを抱えながら、奥へと逃げていった。


まだ路上に一般人がいる中の攻撃。

ディドリクが躱せたのを見て、ブロムは氷弾の打ち手の方へ飛んで行った。

一方、氷弾が上からも発射されたのを見て、ヘドヴィヒは飛行魔術を唱え、屋根の上に飛びあがる。上空からの攻撃は、既に経験があった。


残されたメシューゼラとアマーリアだったが、事前に認知結界により察知していたこともあり、驚かない。

メシューゼラがアマーリアに防御結界を張るように指示して、ディドリクが飛び込んだのとは別の路地入口へと後退する。

これによりアマーリアの姿は隠れ、メシューゼラの身があたりをうかがう形になるが、この二人には次弾の攻撃はなかった。

暗殺隊はディドリクだけを狙っている、というのが、二人にもじわじわとわかってきた。

「ベクター! ベクター!」

メシューゼラは中空に向かって叫ぶ。

すると路地の暗がりの中で、熊皮を被った男が亡霊のように浮かび上がる。

「ベクター、兄様と分断されました。私は後を追うから、アマーリアを守って」

ベクターが了解すると、メシューゼラは兄が向かった狭い路地に走っていく。

アマーリアの結界の中にきたベクターが、アマーリアに結界の変化を指示する。

「防御しつつ、身を隠せ、そして認知眼を広げるのだ」

アマーリアは、自身の結界を維持、それにより、外界からその姿が消える。

少なくとも一般人の肉眼ではとらえられなくなる。

そして同時に、この乱戦の中で認知結界を展開し、どこで誰が何をしているのか、をできるだけ早くつかもうとした。



地上側の氷弾の打ち手めがけて突っ込んでいったブロムはすぐに打ち手を見つけ、切り伏せた。

目でとらえるのが困難なほどの速度で突っ込んできたブロムに驚く射手。

しかし標的をそちらに変えようと詠唱する前に、頭と胴体は切り離されていた。

射手は二人いたが、もう一人も返す刀で倒される。

だが、突っ込んでいった時、地上側には三人いたことを確認していた。

もう一人は?

そう思った矢先、右側から剣が襲ってくる。

だがブロムはその剣の軌道の外に逃げようとするのではなく、頭をその軌道の方に向け、かいくぐるようにしてよけた。

相手の剣も、ブロムの意図を察して、攻撃を止めて後ろへ飛びのく。

剣のコースに飛び込んでくることにより、相手の懐へとびこみ、かつ、剣の起動の後ろ側に飛び込んでいける。

攻守一体の剣技で、相手が並の使い手なら、剣を振り終わった瞬間にそれを持つ腕が切り離されていたことだろう。

だが、相手は瞬時にブロムの意図を察して後ろへ飛びのいた。

懐に入られると、刀を返して防ぐことも切りあうこともできなくなるからだ。


両者は見合ったまま、動きが止まる。

「なるほど、報告通り、すごい腕だな」

暗殺者がこう言うと、ブロムは

「俺もお前みたいな高速の剣士は久方ぶりだ」

と言う。

切り伏せた氷弾の射手が小路の側から撃ってきたため、その小路で対峙する二人。

人はいなくなったが、狭い路地で、左右への動きが制限される。

そんな中で、まったく動かないように見えた二人だが、すり足で進むように、少しずつ、少しずつ、間を詰めていく。


屋根の上に飛びあがったヘドヴィヒは、そこに数人の打ち手がいるのを確認した。

打ち手の側も、まさか一瞬のうちに屋根の上に上ってこられるとは思っていなかったため、ギョッとした表情を見せるが、それも一瞬。

「シャァー!」

先頭の男が奇声を発してヘドヴィヒめがけて氷弾を打ち出す。

だがさすがに動揺が残っていたのだろう、正確さに難があった。

ましてやヘドヴィヒは、先の戦いで正確に球を打ち出してくる筒玉との戦いを経験している。

姿の見える場所からの攻撃であれば、よけるのは大して難しくない。

問題は距離。

ブロムのような高速移動まではできないため、やはり飛び道具を持つ相手には不利だ。

距離をつめると、ヘドヴィヒの剣が届く前に、氷弾の餌食となってしまうだろう。

しかし、ヘドヴィヒは飛行魔術以外の手を持っていた。

間合いに飛び込めなくても!

呪文を高速で唱え、第二撃を放つ暗殺者。

それさえ躱せれば、間合いに飛び込めなくても勝機がある。

筒玉ほどの精度がない氷弾第二撃を交わすと、ヘドヴィヒは勝利を確信した。


氷弾を打った男は、まだヘドヴィヒの間合いではないのに、四肢の動きが麻痺してきたのを感じた。

見ると肩口に、何か針のようなものが刺さっている。

麻痺がそこから広がり、ついに腰から崩れ落ちる。

なんとか立ち上がろうとしたとき、既に目の前にヘドヴィヒの姿があった。

ヘドヴィヒの毒針は、氷弾ほどの射程はないものの、剣の間合いよりははるかにあり、しかも見づらくよけにくい。

最初の男を切り伏せたヘドヴィヒだったが、数人、少なくともあと四人くらいはいたはずの暗殺者の姿が消えていた。

立ち去ったのか? いや違う。

ピシピシと張りつめる殺気が、まだこの屋根の上に残っている。

「ふふ、そうよ、そうこなくっちゃ」

ヘドヴィヒの顔に、笑みがどんどん広がっていく。



別の路地の奥へと進んでいくディドリクは、カルロッタを抱えながら

「すまない、巻き込んでしまったかもしれない」

と詫びる。

「え? 何がどうなってるの?」

カルロッタの方は突然抱えあげられて、下町の方角へ連れ去られていることで、頭の中がパニックになっていた。

路地を抜けて、別の通りが交差している場所へ来るとカルロッタを下ろし、周囲を索敵する。

「帰れますか?」

「場所は知ってるけど...」

しかし暗殺者の気配を背後に感じて、一人でこの少女を帰すのは危険だと判断した。

「ペトラ、滅身防はあるか?」

「ありますが、これはディドリク様のためにと」

滅身防とは、かくれみのの一種。

視覚を阻害できるが、視覚だけである。

臭いや音まで遮断できないので、猟犬などに追われるときは使えないのだが。

従って戦闘中に相手の目をくらませるか、あるいは非戦闘員を隠す時に使われるもの。

「いいかい、カルロッタさん、事情は後で説明するので、今はこの中で音を出さないように隠れていてください」

そう言って、ディドリクはカルロッタに、携帯用滅身防をかぶせる。

するとカルロッタの姿は消えた。


追ってくるのは二人。

だがこの先にもう一人いるようだ。

「ここで決着をつけよう」とペトラに言って、通りの両側に隠れる。

すると後を追って、二人の男が現われた。

「へへ、ようやく追いついたな」

戦闘を走ってきた中年男が、立ち止まる。

「行くぜ」

そう言うと、男は口の中でもごもごと何かを唱え始める。

すると男の足元の影が、スーッと伸びていき、ディドリクが身を隠した小藪の方へ向かっていく。

「死ね!」

その影が小藪の中に到達すると、繊維がこすれあうような音がして、その中からディドリクが飛びあがって出てくる。

「不思議な術を使うな」

ディドリクがそう言って、隠れていた小藪を見ると、そこには食虫植物のような蔓草が小藪の中でうごめいている。

花身のところが真ん中から割け、そこに不気味な牙状のものが生えている。

その中年男が再び影を伸ばし始めた時、傍らからペトラが短剣で切りかかる。

「ちっ」

と声を漏らして、男は身をかわし、影を引っ込めて、ペトラと切結ぶ。


だが、中年男フラニールの後ろから遅れてついてきた中年女が、細身の剣を繰り出して、ペトラに襲い掛かる。

ペトラがそちらに注意を奪われた隙に、フラニールの袖口から錫杖が飛び出し、それがペトラの腹を打った。

蹲るペトラ、そこへトドメを指さんとして細剣を首の上からたたきつけようとする中年女。

ところがその女の衣服が炎に包まれて、こちらも転倒する。

熱場を用いたディドリクの遠隔火炎放射。

ペトラがよろよろと立ち上がり、その女を短剣で切り伏せるも、再びフラニールの錫杖を、今度は首筋に食らって倒れる。

そこへディドリクが突っ込んでいき、今度はフラニールに炎弾を浴びせる。

フラニールはペトラにトドメをさせずにその場から飛びのくが、右の肩口を炎弾がとらえる。

4対4となった戦いは、細剣の女が打ちとられ、ペトラが失神して、再びフラニールとディドリクの戦いとなる。


利き腕側の肩口を焼かれたフラニール、その手から隠し武器としていた錫杖がだらり、と落ちて、カラカラと音を立てて転がる。

一瞬、見合ったようになるが、フラニールに考える暇を与えることはない、と考えたディドリクが、両の掌で空気を焼き、力場を使って大きな火球を作り上げる。

その火球をポーンとフラニールの頭上に投げ上げ、落とす。

火球をよけようとして体勢を崩すフラニール。

だが、逃げ出そうとして、両足に痛みが走る。

両足の脛に、氷剣が突き刺さっていた。

ディドリクが体勢を崩したフラニールめがけて、負の熱場で氷結を生み出し、それをフラニールの足にぶつけたのだった。

「ジョルバ! ニコロ!」

フラニールが大声を出して仲間を呼ぶ。

その隙は与えないとばかりに、フラニールに突っ込むディドリク。

だがその背後から、長い針が飛んできた。


奥にまだ一人いることは察知していたので、ディドリクはこれを交わすことができたが、フラニールにトドメはさせなかった。

片手に今投げたのと同じ長い針を持った、黒づくめの衣装の男が現われる。

「だんな、すまねぇ」

「おまえは後ろからくるヤツに備えろ」

その言葉を聞いてフラニールが振り返ると、そこに赤髪の少女が剣を抜いて躍りかかってきた。

だがさらにそこへ二つの影か。

鞭を持った男が赤髪の少女に攻撃をして、その少女、メシューゼラはハッと背後に飛ぶ。

「兄様、御無事で」

二人は背中あわせになり、四人の攻撃に備える形になった。



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