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魔法博士と弟子兄妹  作者: 方円灰夢
第六章 君よ知るや南の国
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【八】 調査と仕掛け

「やあ、それでは今回、よろしくお願いします」

と挨拶を交わすディドリク。

待っていたのはルチアだけでなく、ペールもいる。

女の子一人だとさすがに心配だったのだろう。

前日、ルチア一人で、と言ったわけでもないので、それは当然かな、と思うディドリク。

「こんばんわ、今日はよろしくね、ルチア」

メシューゼラが明るい笑顔で話しかけ、今まで漂っていた緊迫した場の空気が和み始める。

こういうとき、明るくふるまえるメシューゼラの個性は貴重である。


「昨日と顔ぶれが違いますので、改めてこちらも紹介しておきます」

「こちらから、ブロム、ペトラ、そしてヘドヴィヒです。いずれも私の護衛兼従者です」

ブロム、ペトラはしっかりと二人を見つめて挨拶をするが、ヘドヴィヒは深くフードをかぶり、髪を見せないようにしている。

ペールが少し訝し気にヘドヴィヒを見つめていたが、気にせず今日の予定を告げる。

「市場と、できれば下町の周辺くらいまで教えていただけると幸いです」

そしてペトラがそれに加えて

「市場の南側、教会の跡地があるみたいなので、それも案内してほしい」

と付け加える。

「市場は大丈夫ですけど、下町は私達でも近づかないようにしている区画がありますので、そんなには行けません」

「それでけっこうです」

とディドリクは言って、市場の中を進んでいく。

だが同時にペトラに小声で

「大丈夫だと思うけど、警戒を頼む」とガラク語で伝える。


「兄様」

そこへアマーリアからの通信で、これはメシューゼラにも伝わっているらしく、胸に手を当てている。

「ベクターに変わって私が周辺の状況を報告します」

確かにベクターではどうしても目がそちらにいってしまうので、この方が助かる。


「途中で食事もしたいので、どこか良い店があったらついでにお願いしますよ」とルチアに言って、練り歩いていく。

やはり服飾店の前ではメシューゼラの足に根が生えてしまったようになり、なかなか動いてくれない。

かと思えば、武具屋の前を通ると、今度はブロムとヘドヴィヒが動かなくなる。

全ての市場、店を見て回れたわけではないが、大通り近辺はだいたい把握できた。

昨日は、最初は警戒心と敵意、後半は畏怖の目でディドリクを見ていたペールも少しずつ打ち解けてきた。

「ブロムさん、ここの店はパチモンも売ってるから注意ですよ、見栄えは悪いけど、あちらの方が安くて良い品がありますよ」

などと言って、店案内までやってくれるようになった。


一通り歩くと既に暗くなっていたので、ルチアご推奨の店へ食事に行く。

昨日のレストラン風の店と違い、そこは小料理屋のようなところ。

七人も入るとテーブル席がふさがってしまったが、店の女将は愛想よく対応してくれた。

「ルチア、良い客を連れてきてくれて、ありがとうよ」なんて言っている。

孤立したテーブルは他になく、カウンターのようなところと長机が置かれている場所、と言った感じで、少し広目にとってある土間に座りこんでいる客もいる。

「ブロムさんたちは、酒は飲むのかい?」

こうペールが訊いてくるので、ここは居酒屋も兼ねているのだろう。

だが、ここで飲みそうなのはヘドヴィヒくらいだったので、ディドリクがそちらに目をやると、何やら表情が崩れかかっている。

「彼女くらいかな、飲むのは」

それを聞いてペールは、

「甘くて、それでいてよく回るのがあるんですよ」と言って、返事を聞かずに注文してしまう。

「もう、ペールったら。返事も聞かずに」

そういうルチアだったが、なんとなくこちらも打ち解けてきている。

たぶん普段の彼女は、こんな感じなのだろう。


各自それぞれに注文して、それぞれに食べる。

魚と野菜の揚げ物が中心だったが、決して昨日の料理には負けていない。

風土色があり、それだけでも興味のある品が出てきたが、味付けがフネリック王国と全然違う。

総じて甘みが強く、深く濃い味、それでいて香辛料のヴァリエーションがかなりある。

見るからに庶民的な店、というか料理屋なのに、これだけ豊富な食材と料理。

ジュードニア王国もガラクライヒ王国とは違う方向性で、豊かな国なのだろう、ということがうかがえた。


「兄様、すごくおいしいです、これも、そっちも」

そう言いながら、メシューゼラの口の周りにタレがついていたので、そっと拭いてやる。

「あ、うん、ありがと」

と少し恥ずかしげ。

それを見てルチアが、

「お兄様なのですね、王子様も」と言って微笑んでいる。

「私も兄がいたのですけど、よくそうやって口元を拭いてくれました」

(いた)と過去形で言ったのがかなり気になったが、食事の席で聞くのも無粋だと思い、料理の話へ誘導していった。

「北国ではこれほど香辛料が来ていないので、どれも味付けが見事です」

ただ一人表情が変わらないペトラも黙々と食べているので、それなりに気に入っているのだろう。

ヘドヴィヒは羽目こそ外していないものの、ペールが奨める果実酒で真っ赤になっている。


気持ちよく食べて、気持ちよく酔って(一人だけだが)、店を出ることした。

支払いをしてみてびっくり。

昨日の倍近くは量を食べたのに。料金は前日の1/3くらいだった。

「王子様、二日も続けて良いところで食べさせてもらって、ありがとう」

ペールが少し照れながら、言うので。

「こちらこそ、我々だけでしたら、こういう店にはたどり着けなかったですよ」

ディドリクもそう返しておく。


「市場の通りはだいたい把握しました」とペトラがこっそりディトリクに耳元で言い、続けて

「教会跡地を見ておきたいです」とつけ加える。

意図がわからなかったけれど、その旨をルチアに伝えると、

「ええ、少しありますけど行けなくはありません、市場の南側、郊外になりますが」

そう言って、最後の目的地へと向かう。

下町は周辺だけで、夜ということもあり、結局入らなかった。


教会へ向かう途中、ディドリクは小声でペトラにアルルマンド語で尋ねる。

「教会跡地に何かあるのか?」

「いえ、昨日地図を見ていて気付いたのです。帝都でもああいう場所は素性を隠したい者が潜伏するのに都合が良いので」

それをきいてディドリクはアマーリアに思念の通信を送る。

「アマーリア、これから南方郊外の教会跡地に向かう、そこまで認知結界を張れるようならベクターに頼んでほしい」

「わかりました」

結界はアマーリアが張っているのだが、ベクターは心配させるといけないので、ということで伝えていない。

従ってディドリクはベクターが結界を展開させていると思っている。


市場にともる夜の灯りを後ろにして、街灯もない暗い夜道を進んでいく。

しかしさすがによく知った道なのか、ルチアもペールも迷うことなく歩いていく。

するとほどなくして、前方に黒い塊が見えてきた。

「あれが聖乙女教会、聖ルチア様の教会跡地です」


「聖ルチア様? あなたと同じ名前なのね」とメシューゼラがルチアに尋ねる。

「はい、王都タルキスの女性の守り神です。それでこの王都では、ルチアって名前の女性が多いのです」

とルチアが少し言いにくそうに、でも誇らしさも少しこめて説明してくれる。

「でも、跡地なのよね?」

「はい、少し前に内乱があって、ワルド軍が立てこもったので戦闘になって、壊れてしまったのです」

「ワルド人ってのは東の方にいる部族で、俺たちヘルティアの王様から王位を奪おうとして攻めてきやがったんだ」

ペールが憎々し気に説明する。

「へえ、北の方だとそんな話はとんと聞かなかったですよ」とディドリクが言うと

「内乱はしょっちゅうありますからね、ここじゃ」

とため息交じりにペールが付け足す。

「でもあの時、アッティリオ様がワルドの連中をさんざんにこらしめてくれたんだ、ざまぁみろい、って気持ちでしたね」

「アッティリオ様、っていうのは、確か第二王子でしたっけ」

ディドリクがこう尋ねると、

「アッティリオ様はこの国の誇りです」

そう言うので、ディドリクもこのジュードニア滞在中に逢えるかもしれないと思い、その名を記憶しておく。


教会跡地に足を踏み入れる前に、ディドリク自身も認知結界を張ってみる。

「殿下、いかがです?」

というペトラの問いに、

「どうやら誰もいないようだ」と答える。

だが念のため、アマーリアを呼び出して確認をとる。

「アマーリア、教会跡地に怪しい者はいるか?」

「いえ、いた痕跡はありますが、今は誰もいません」という答。

痕跡までわかるのか、そう思いながら、内陣へ進んでいく。


(あの声が聞こえたところだ)とルチアは思い出し、あのことを告げるかどうか、迷いがまたわきおこってきた。

「この先が礼拝堂の跡地だったかな」

ペールの先導に従って、一行はその礼拝堂跡地へ入る。


「王子様、内々にお伝えしたいことがあります」

こう言ってルチアは、ディドリクに小声で話しかける。

「わかった、なんですか?」

ディドリクは声を落として、一行から少し離れる。

そこでルチアは一昨日の声のこと、昨日ディドリク達が立ち去ったあとに男がルチア達のテーブルに来たこと、その男が声の主らしいこと、などを伝えた。

それを聞いてディドリクは少し考えたあと、

「ルチアさん、すごく大事なことかもしれません、ありがとう」

と言って、先ほどの雑貨屋でチェーンと一緒に買った守り札にある文言を書き記してルチアに渡す。

「もしあなたの身に何かあったら、この守り札で僕を呼んでください、ここには魔術文言を記してあります」

「王子様は魔術を使えるのですか?」

驚嘆の目でディドリクを見るルチア。

正確には魔術ではなく法術なのだが、いちいち説明するのも煩雑なので肯定しておく。

「相手があなたの顔を知っている、というのは、警戒しておいた方が良いかもしれませんので」

こういうと、ルチアの顔からサッと血の気が引いた。

「大丈夫、これはその時のためのものです」と言って、彼女にそれを握らせる。


一行に戻ると、ディドリクはブロムとペトラに伝える。

「ここに暗殺者達がいた可能性が高い」

と言って、先ほどルチアから聞いた話を手短に伝えた。

「殿下、これはチャンスでは」とブロム。

「うん、少し仕掛けをしておこう、ペトラ、一緒に来て場所を覚えておいてくれ」

そう言ってディドリクはペトラを連れて礼拝堂、残っている内陣の全てに、何かをパラパラと巻いて歩いた。


「王子様は何をやってるんだ?」

ペールは不思議そうにディドリクとペトラの行く方を見ていたので、ブロムが

「少し調べることができたようですが、気になさらずに」

「ふーん、ま、気にはなるけど、そう言うのなら」

そう言って、ルチアの元へ戻ってくる。


一通り教会跡地を見て回った一行は、帰路についた。

市場を抜けたところで、ルチアとペールにそれぞれ金貨を一枚握らせる。

「こちらの相場がわからないので、少ないかもしれませんが今日のお礼です」

だが、二人とも金貨から目が離せない。

「いけません、王子様、こんな大金を私たちに」

「いいんですよ、気にしないで」

とはいうものの、二人はかなり動揺している。

ディドリクとしても金で顔をはたいたみたいな感じになってしまったので、

「それじゃ今回の件の口止め料もコミ、ということで」と言って、二人に握らせた。

「それと、できれば情報量もコミということにしてください」

「情報量?」

「今後、この町で起こったいろんなこと、あ、過去に起こったことでもいいですけど、教えてほしいのです」

「そういうことなら」と、ペールは金貨を懐に収めた。


二人と別れた時、既にあたりは真闇となりつつあった。

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