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魔法博士と弟子兄妹  作者: 方円灰夢
第六章 君よ知るや南の国
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【七】 下町の戦い

宿舎から下町へ向かった五人は、その入り口である簡素な居酒屋に到達する。

その傍らを抜けて、下町へ。

大通りはなんとか頭に入っているものの、予想以上に脇道、路地が多く、最初のうちはそれらをさけて、大通りを進む。

最初の交差点が近づいた時、ディドリクは自分を呼ぶ声に気が付いた。

小さな路地の暗がり、そこにぼんやりと影が映っている。

熊皮のフードをかぶった男、ベクターだ。

「ベクター、どうしてここに?」

ベクターはアマーリアを守っているのではなかったのか?

胸中に不安が起こる中、背後からまた違った反応が来た。

「兄様、誰かそこにいるのですか?」

メシューゼラの声だ。

そちらを見るが、彼女はディドリクしか見えていないようだ。


「ディドリク、この映像はおまえにしか見えていない」

と、ベクターの映像は語る。

「私は今、アマーリアと一緒にいる、護衛については心配するな」

「どうしたんです、何かあったのですか?」

「いや、ちょっとした実験をしているところだ、おまえの周囲を「見て」いる」

「見ている?」

ディドリクが暗がりに向かってぶつぶつしゃべっているように見えたので、メシューゼラだけでなく、ブロム達も気づいた。

「王子、その暗がり、路地には誰もいません」

ペトラが案じて声をかける。

だがそれもお構いなく、ベクターは続ける。

「その交差点を直進して、四つ目の路地で、細身の剣を携えた者が誰かを狙っている」

「一人か?」

「そこにいるのは一人、しかしその路地に面した集合住宅の屋根にもう一人潜んでいて、小さな筒を持っている」

「わかった」


ディドリクは三人に向き直り、

「ベクターが通信をよこしてくれた、暗殺者らしきものがこの先に潜んでいる」

と伝え、交差点を横切っていく。

「王子、私にやらせてください」とヘドヴィヒ。

「いや、最初の人物は剣をもっているので、ブロムにお願いしたい。くれぐれも我々が気づいていることを悟られぬように」

そういって、地図を見ながら進んでいくふりをし、ヘドヴィヒに小声で語り掛ける。

「ヘドヴィヒさんには、屋根の上にいる「筒で狙っている人物」の対処をお願いしたいです」

「ブロムにまかせる」と言ったとき、あからさまな不満を顔に見せていた戦闘狂の娘は、これを聞いて満面の笑み。

「わかりました、どちら側の屋根ですか?」

「路地に面した側の、集合住宅の屋根だそうです、悟られぬよう、そちらを見ないでください」

「心得ました」


夕方が近いこともあり、往来はかなりの人出。

それらをかいくぐりながら交差点を渡り切り、進んでいく。

路地を数えていくと一つ目、二つ目...。

交差点を渡り切った側は、居住区なのだろうか、途端に人が少なくなる。

なるほど、この路地からだと、人目につかず襲撃できそうだ。

三つ目の路地を過ぎて、四つ目、ディドリクは目で合図する。

暗がりから音もなく伸びてくる剣!


まるで針のような細い剣が、突然暗がりが突きだしてきた。

事前に知っていなければ、胸を貫かれていたかもしれない。

いや、知っていてなお、ディドリクはよけそこなった。

剣が胸をとらえかける一瞬、ブロムが飛び出していき、剣をはじき、暗がりの中へ飛び込んでいく。

「ヘドヴィヒさん!」とディドリクが声をかけるや、ヘドヴィヒは用意していた飛行魔術を唱え、ピョーン、と屋根の上に飛んでいく。


暗がりの中では、ブロムが剣を持った暗殺者と戦っている。

ブロムの素早い動きに驚いていた暗殺者だったが、そちらもなかなかの手練れと見えて、容易に懐を割らせない。

大通り側にいるディドリクには、剣がぶつかり合う金属音が聞こえるだけ。

ペトラは第三の襲撃者に備えて、ディドリクとメシューゼラの前に立ち、警戒している。

やがて、剣戟の音がやみ、ブロムが出てきた。

「すまない、生け捕りは難しかった」

ディドリクが少し覗いてみると、胸と首の頸動脈を斬られて血の海に沈んでいる小柄な男の死体があった。


屋根に飛びあがったヘドヴィヒは、すぐに暗殺者を発見した。

その人物も小柄な男で、不意に目の前に現れた白い肌、金髪の女に驚いて、下に向けて狙っていた筒をそちらに向ける。

ポン、という音が響いて、筒から鉄の玉がものすごい勢いで発射された。

咄嗟に身をかわすヘドヴィヒ。

昨晩、ディドリクから聞いてはいたが、初めて見る魔術攻撃である。

だが、最初の射出から、次の鉄玉を込めるのに時間がかかる。

ヘドヴィヒは屋根の上に飛び出している煙突に身を隠す。

最初の攻撃は不意を突かれたので狙いが狂ったのかもしれない、次はおそらく、と思いとっさに身を隠したのだ。

だが暗殺者はヘドヴィヒが隠れた煙突を見てニヤリと笑い

「俺の筒玉がそんなことで防げるかよ」と言って、煙突に狙いを定める。

もっともヘルティア語だったので、ヘドヴィヒには通じてなかったのだが。


「ポン!」

第二撃が発射され、それは煙突を貫いた。

だが、ヘドヴィヒは射出の瞬間に飛び出し、煙突を蹴って一直線に暗殺者の元へ駆け寄る。

連続で玉は射出できない、それを見越しての攻撃である。

まさか自分から的になるかのように飛び出してくるとは思わず、暗殺者は急いで第三撃の鉄玉を筒にいれる。

しかし、遅かった。

「ポン」

第三撃は発射された。

しかしそれは中空に向かって、目標とはかけ離れた方向に打ち上げられただけ。

ヘドヴィヒの剣が、暗殺者の心臓を貫いていたためだった。


「見たこともない術ね、楽しかったわ」

と言い、剣を引き抜いたヘドヴィヒは、返り血を浴びた手首のあたりを見て、ニヤッと笑った。


屋根からヒラリと舞い降りたヘドヴィヒは上々の気分でディドリクの元に報告に行く。

「筒のようなものから、鉄の玉を飛ばしてくる術だったわ、面白い使い手ね」

しかしディドリクはその様子を見て

「そちらも捕えるのは難しかったみたいですね」

「あっ!」

どうやらヘドヴィヒの方は、すっかり忘れていたようである。

「いや、だって飛び道具だったし」

とあたふたしながら説明するヘドヴィヒ。

「次からは覚えていてくださいね」

と言って、ディドリクはベクターと通信する。


「ベクター、おかげさまで二人は倒せました。しかし暗殺者は最低でも三人はいたはずですが、わかりますか?」

「少し遠いので、はっきりしないが、それらしき影は南東の方角にいる」

それが近づいたら教えてくれるように言って、ディドリク達は南東に進んでいった。



「やられちまったようですぜ」

千里眼の男が、傍らにいるフラニールに報告する。

「あの二人がか?」

フラニールはその千里眼に驚いたように尋ねる。

「どうやら護衛の者のようです。一人は黒檀族、もう一人はちょっとよくわかりません」

「なかなか凄腕の護衛がついているみたいだな」

「どうしやす?」

「対策を立てた方がよさそうだ、今日は引き上げる」



「南東の影は消えた」

ベクターの報告を受けて、ディドリクは敵が退散したことを知った。

そして一行は、ルチアと待ち合わせの場所へ向かうことにする。


下町を抜けて、市場の出入り口に着いた一行は、昨日の路地へ向かう。

だがルチアがまだ来てなかったので、その場所が見える範囲で、周囲の店を見て回ることにした。

道路に面して向かい、雑貨屋があったので、そこに入ってみる。

メシューゼラがアクセサリー等を見つけている間、ディドリクはふとあるものが目についた。

白銀色にメッキされた、長いチェーンでできた飾り紐。

先端に錘が取り付けられるており、実用性を感じて購入することに。

それを見てヘドヴィヒが

「鞭としても使えますね」

などと物騒なことを言い出すが、もちろんそれを「実用性」として心惹かれたわけではない。


その店にいる間に、ルチアも到着したのが見えたので、店を出て、お針子の少女と合流した。

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